本研究が対象とするピース楽譜、セノオ楽譜の全楽譜のデータベースを作成している。ここには、収録されている作品の作品名、作曲者名、出版年、解説、版と所蔵先などの項目が設けられている。これまでに、東京藝術大学附属図書館、国立音楽大学附属図書館に所蔵されている資料を中心に、約300点の楽譜を調査し、その情報を入力した。今後は、竹久夢二美術館や明治学院大学図書館付属日本近代音楽館で調査を継続していく。また、公的な図書館に現存が確認できない楽譜については、出版社が刊行した出版目録や楽譜の背表紙、新聞などに掲載された広告などをもとに、確認できる範囲の情報を入力した。 こうして体系的に調査することによって、セノオ楽譜のピース楽譜シリーズではない、セノオ音楽出版社からの楽譜を確認することができた。また、同じ楽譜でも版違いの楽譜も、その存在をすべて登録することで、どのような楽譜が再版を重ねているのかが明らかになってきた(たとえば『軍艦行進曲』や『夜の調べ』などは20版を超えている)。楽譜への解説も、年代ごとに傾向があることがわかった。この解説には、当時の(少なくとも出版者の)音楽観が如実に表れており、貴重な資料と言える。それらが検索できるようになる意義は大きい。 データベースの作成と平行して、大正時代の音楽文化の状況を、当時の音楽雑誌の記事から調査した。今年度は、主に『音楽界』と『新音楽』を調査し、セノオ楽譜のなかで出版された作品にまつわる記事を収集した。楽譜が音楽界と密接に関わっていたことは、受容史を考えるうえで、重要な観点となる。
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