研究課題/領域番号 |
17K13350
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梶丸 岳 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (50735785)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 民謡社会 / 秋田県 / 民謡大会 / 民謡教室 / 趣味の共同体 |
研究実績の概要 |
本研究は秋田県を対象に、民謡が現代社会においていかなる社会を生み出し再生産しているのか、現代日本社会において民謡はいかなる存在なのかを明らかにすることを目的としている。2018年度は4回のべ32日間秋田県を訪れ、由利本荘市中央図書館などで文献・映像資料の渉猟を行うとともに、さまざまな民謡大会の調査を行った。民謡大会の前後では大会主催団体や参加者、民謡教室主催者などのインタビューも行なった。さらに4か所の民謡教室の調査も行った。 今年度の調査でも趣味として民謡教室に通い、大会に出場する民謡愛好家たちの姿が確かめられた。今年も歌い手へのインタビューを継続的に行い、歌い手がいかに民謡を習い大会に出るようになるか、という動機や、現在の生活における民謡の位置づけについてより多くの事例を収集することができた。また、大会の運営側へのインタビューでは「来年で終わりになるかもしれない」などといった声も聞かれ、運営を主導する人々が高齢化し、さらに年々補助金がカットされていくなかで大会を続けていくことの困難さが明らかになるとともに、現在が大会のシステムという点で秋田の民謡社会にとって転換点に差し掛かっていることが新たに見えてきた。 民謡教室の調査からは、民謡の習得・練習で常に尺八の寸法によって言及される歌い手の音高の重要性が明らかになってきた。練習のかなりの部分が「どう声の高さに伴奏楽器を合わせるか」という議論で占められているというのは西洋音楽のレッスンと対照的であり、民謡歌唱における独特の価値観を表していると考えられる。また、レッスンにおいてはそれぞれの指導者がそれぞれに工夫を凝らしており、身振りをほとんど使わない指導者もいれば、身振りを常に使用する指導者もいることがわかった。ここからは、民謡の歌い方をどう捉えるか・どう伝えるかをめぐる方法論の多様性が見て取れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では新たに調査をした6つの民謡大会を含め合計9つの大会を調査することができた(なお2019年4月には1つ新たな大会を調査した)。これで秋田県において開催される過半の民謡大会を調査したことになり、ようやく秋田県における民謡大会の全体像を理解することができるようになってきた。特に民謡大会が開催されるようになった由来と運営の実際的状況は従来論じられていたよりもかなり多様であることが見えてきた。また本年度は過去の大会プログラム収集にも力を入れたため、通時的に複数の大会の変遷を追うことができるようになった。また複数の民謡大会の参加記録を見ることで民謡愛好家が1年でどの程度の数大会に参加しているのかもわかるようになった。 民謡教室の調査からは、教室の指導者によって指導方法がかなり異なっていること、民謡の歌唱において重視されているポイントについて明らかになってきた。また教室参加者へのインタビューによって、民謡教室の参加動機や民謡を習うに至る来歴についての多様な事例を集めることができた。大会でも参加者に同様のインタビューを行っており、秋田県の民謡社会を底支えしているアマチュア愛好家たちについて全体的な理解に近づいていっている。 文献や資料収集に関しては、秋田県立図書館を中心として各地の図書館・図書室の資料を集めるとともに、民謡関係者や民謡大会主催者より、1950年代から現代にいたるまでさまざまな資料を提供していただくことができた。これにより秋田県の民謡の変遷をかなり追うことができるようになった。 以上から、本年度もかなり順調に研究を進めることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
民謡大会については今後も継続した調査を行い、現在曲がり角を迎えつつある秋田県の民謡社会の変遷を追っていく。特に未調査の大会についてはなるべく運営者へのインタビューだけでも行い、資料のより完全な収集に努める。これと並行してこれまで収集してきた資料の分析を進める。とりわけ過去のプログラムに記載されている参加者情報を使って、民謡愛好家の大会参加状況の経年分析を行っていきたい。これによって、民謡大会が行われるようになった1980年代以降の民謡社会の全体像をある程度実証的に描き出すことができるようになるはずである。 民謡教室についても継続して調査を行うとともに、収録した動画の分析を進めることで、単にその場で観察しているだけではわかりにくい練習の特徴について明らかにしていく。 とりわけ次年度は最終年度であるため、この2年間で収集してきた資料の整理・分析に力を入れていく。そのうえで国際学会(ICTM)で特に大会で重視される評価軸について発表するとともに、民謡社会の全体像について投稿論文にまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は秋田への調査期間が予定より長く、回数も多くなったため10万円分次年度から前倒し請求をしたが、旅費を切り詰めた結果若干の余りが出ることとなった。次年度は海外で国際学会に発表するための経費が掛かるうえ、国内の補足調査も複数回行う予定であるため、次年度使用額も主にそうした旅費として使用する予定である。
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