本研究は秋田県を対象に、民謡が現代社会においていかなる社会を生み出し再生産しているのか、現代日本社会において民謡はいかなる存在なのかを明らかにすることを目的としている。2019年度は4回のべ13日間秋田県を訪れ、秋田港の唄全国大会、全県かけ唄大会、仙北荷方節大会、秋田おはら節全国大会などの調査をするとともに,大会主催団体や参加者、民謡教室主催者などのインタビュー、さらに民謡教室の調査も行った。またこれと並行して関連する文献の収集も行なった。 本年度の調査から明らかになってきたことのひとつは、秋田県の民謡社会が秋田県の中で閉じているわけではないということである。たとえば大仙市や仙北市は盛岡からも比較的近く、この地域で開催される大会は岩手県から比較的参加しやすいということが参加者へのインタビューから明らかになった。民謡教室を介したつながりも必ずしも県内で閉じてはおらず、関西や東京の民謡愛好家たちともつながりがあることが明確に見えてきた。また昨年度調査に行った民謡大会が今年度で閉じることになるなど、改めて現在秋田県の民謡界が岐路に立っていることも確認された。 また、これまでの調査によって得られた資料の分析も進めることができた。7月には国際伝統音楽会議のパネル発表で掛唄大会のパフォーマンスと民謡大会のパフォーマンスを比較し、両者の違いが評価軸の違いの帰結であることを指摘した。また、現在出版準備を進めている英語論集の論文ではとくに生保内節全国大会を事例に、大会における民謡と宴会における民謡の違いを民族音楽学者トマス・トゥリノの「参与型パフォーマンス」と「上演型パフォーマンス」という分類を参照しながら、両者が異なる「場」によって生み出されていることを示す予定である。
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