研究課題/領域番号 |
17K13352
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研究機関 | 広島文化学園大学 |
研究代表者 |
大迫 知佳子 広島文化学園大学, 学芸学部, 准教授 (40624218)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 音楽史 / ベルギー / 近代国家と音楽 / 芸術諸学 / 音楽学 / 北方性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近代ベルギーの国家形成に音楽が果たした役割を解明することである。 昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載したとおり、今年度は主に19世紀後期から20世紀初頭のベルギーにおける音楽公教育再組織の過程と、その過程への諸理論・思想の影響を解明することを試みた。結果として、この時期のベルギーでは、昨年度までに解明した歴史的経緯を経て、各地域の言語文化的背景を踏まえた各王立音楽院院長の理論・思想を拠り所とし、政府の協力の下、それぞれの地域における音楽公教育基盤がほぼ固まりつつあったことが明らかになった。つまり、1)ブリュッセル王立音楽院では、院長交代による二度目の再組織がなされた。再組織には、音楽に関する優れた要素(理論・人材等)を諸外国から取り入れた教育を目指し、ヴラーンデレン的な要素(歴史等)をベルギーあるいはベルギー音楽を象徴するもののひとつと見做す考え方が、基本的には初代院長から引き継がれて反映された。ここにおいて、ブリュッセル地域では、同音楽院を中心としたベルギー人音楽家の育成およびベルギー人音楽家による音楽活動推進のための公教育基盤がほぼ整った。2)アントウェルペン王立音楽院では、昨年度解明した「ゲルマン的なもの」を拠り所とした王立音楽院が具体的に再組織された。再組織には、ヴラーンデレンの民族・言語に拠る音楽教育を目指す院長の思想が強く反映された。 また、本研究課題に関連し、日本音楽学会支部横断企画「周縁か中心か?―音楽史の中のベルギー」として2回のシンポジウムを企画・開催した。これにより、ベルギー独立から20世紀初頭までのベルギー音楽史を、ドイツ・フランスの音楽史との関連および音楽以外の諸芸術との関連という文脈で捉え直すことができた。 研究の成果は、特に上記1)に関連して上記シンポジウムで発表した。発表をもとにした学術論文に関しては、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年2月上旬ごろから深刻化した新型コロナウィルスの影響により、2019年度に行う予定であった海外渡航を延期した。この延期に伴い、複数国での最終資料調査、ベルギーにおける研究協力者達との最終面談、最終調査・面談を受けての最終考察、および成果報告書等の発行(オープンアクセス)が未遂行となっている。 以上のことから、本研究はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
海外渡航(調査・面談等)に関して、新型コロナウィルス感染拡大予防を巡る各国の方針等を見極め渡航の可能性を探りながら、資料調査に関しては在白の研究協力者(図書館関連)へ協力を要請し、面談に関してはオンラインツールの活用等を試みることで、着実な研究遂行に努める。 これまでの研究と、以上の方策によって、ベルギーの諸王立音楽院院長達の活動・理論・思想が国民の文化的統合に果たした役割を考察することを通して、近代ベルギーの国家形成に音楽が果たした役割を解明し、研究をまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、主として、2019年度末に行う予定で準備していた海外渡航(調査・面談等)の延期(再調整)が必要になったことである。渡航延期の理由は、2020年2月上旬ごろから深刻化した新型コロナウィルスの影響による、①先方との面談調整の困難、②海外渡航に伴う様々なリスク(感染、出入国の可否等)である。繰り越した研究費は、当初の申請費目の通り、延期した海外渡航(調査・面談等。8. に示した調査・面談に関する方策に関わる事柄も含む)と渡航後の成果発表のために使用する。
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