本研究の目的は、近代ベルギーの国家形成に音楽が果たした役割を解明することであった。 2022年度は、これまでの解明点を整理した上で、ベルギーにおける資料調査・収集・分析、および研究協力者たちとの面談を行い、研究をまとめる作業を進めた。 結果として、2020年度の研究実施状況報告書に示した仮区分を修正し、音楽理論家(諸王立音楽院院長)たちによる王立音楽院再組織の在り方を以下の3期に大別した。つまり、①独立直後:ブリュッセル王立音楽院初代院長F.-J.フェティスの国家主義的なナショナリズムに拠る全国統一的な音楽専門公教育再組織期、②19世紀中期以降:フェティスの思想等を継承する首都圏と、ゲルマン民族主義的なナショナリズムに拠る蘭語地域(本研究ではアントウェルペンのみが対象)それぞれにおける独自の音楽専門公教育準備/構築期、③世紀転換期以降:②の音楽専門公教育の基盤確立/再統一(統合)への模索期、の3期である。そして、これら①から③のそれぞれの時期において、音楽理論家たちの理論・思想・活動と国家の方針とが様々なレベルで関連し合っていたことが明らかとなった。また、上記③期には、①期のような全国統一的な形での統一ではなく、各地域の王立音楽院の方針を共存させた形での統合が目指され、これがのちのベルギーの音楽専門公教育等に拠る国民統合の有り様を準備したのではないか、という点も示唆された。 これらの研究成果の一部については、2023年12月に行われる第4回「ベルギー学」シンポジウムにて公表予定である。
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