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2018 年度 実施状況報告書

昭和初期「富士山山雲映像」の統合的復元 ― 気象学者阿部正直の遺産から

研究課題

研究課題/領域番号 17K13364
研究機関東京大学

研究代表者

Osawa Kei  東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (80571231)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード科学映画 / 気象学映像 / 阿部正直 / 雲 / 富士山
研究実績の概要

平成30年度の研究実績は大きく3つに分けられる。まずは、最終年度に一般公開予定の「ABE CLOUD DATABASE」を引き続き作成し、関連するフィルムの追加調査を行った。阿部正直が撮影したフィルムのうち、記載のない未編集雲観測映像を阿部正直の作成によるデータ帳と照合することによって、一部を同定することができた。
本年度の主な課題は、阿部正直が考案した「立体動画上映装置」のデジタル復元であった。阿部正直が撮影した雲観測の立体フィルム(500メートル離れた地点から同時に撮影した二本のフィルム)をデジタル化し、デジタル映像をもって、雲観測フィルムの3D上映を試みた。これを実現するなかで二つの方法をとった。まずは、阿部正直が考えた、二台の映写機を潜望鏡の原理に基づくレンズで繋ぐ装置を再利用し、二台の映写機の代わりにミニプロジェクターを使用した。ミニプロジェクターが上映する二つの映像を潜望鏡レンズで同時に観ることはできたが、立体感が乏しく、阿部正直自信がこのようなフィルムをどこまで立体的に観えたか、疑問が残る。一方、阿部正直が写真用に使用していた立体機(ステレオスコープ)の写真用スロットに小型画面を設置し、画面に立体フィルムを編集した映像を流してみた。ステレオスコープの原理に基づき、動画を立体的に観ることができた。阿部正直が「立体動画上映装置」を開発した当時は、機械の性能に限界があり、嵩張る映写機を二台、潜望鏡レンズで繋ぐほか方法がなかったが、今後の立体映像のデジタル上映において、後者のステレオスコープの装置が有利であることが分かった。
平成30年6月にベルリンのドイツ・フィルム・ミュージアムおよびパリのフランス・シネマテークで調査を行った。特にパリではエティエンヌ=ジュール・マレーに関連する資料を調査し、阿部正直と同時代に撮影された雲のフィルムの存在を確認することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究は当初の計画以上に進展している。まずは、デジタル化したもの以外にも、阿部正直が撮影した雲フィルムを全点調査しているため、当初企画していた範囲をはるかに超える範囲で阿部正直のフィルム・アーカイブを網羅することができている。特に、当初の対象であった雲観測フィルムのほか、阿部雲気流研究所以外で撮影されたフィルムも多く残っており、それらを調査することによって、阿部正直が並行して複数の研究実験を実施していたことが分かった。この成果は、最終年度に一般公開する「ABE CLOUD DATABASE」で発表する予定である。一方、昨年度と同様にIDや基本情報が附されていないフィルムが多く残っており、その同定に向けて継続的に調査する必要がある。
本年度の主な研究課題であった「立体動画上映装置」のデジタル復元は無事完了した。今後、阿部正直が撮影した立体映像を一般公開するための装置も設計できた。
また、ヨーロッパでのフィルム調査においても新たな成果が出た。ベルリンでは新たな資料が見つからなかったものの、パリでは1920年代から1940年代にわたって撮影された雲関連のフィルムの存在を確認し、またジョセフ・カンペ=ドゥ=フェリエが1940年代に撮影したとされる雲関連のフィルムも見つかった。これらは、国外で阿部正直と同時代に雲研究にフィルムを応用していた科学者がいたことを示すものであり、阿部正直の研究の歴史的立場を裏付けることになる。

今後の研究の推進方策

本研究プロジェクトの最終年度において、まずは阿部正直のフィルム・アーカイブを網羅的にまとめた「ABE CLOUD FILM DATABASE」を1月ごろに一般公開する。残っているフィルムを全点調査した結果、データベースで記載するフィルムの総数は2000件弱におよび、当初の予定をはるかに超える。そのため、デジタル化したフィルムの映像自体を全点公開することは困難であり、代表的なものを数点「ABE CLOUD FILM ARCHIVE」として一般公開する予定である。
阿部正直のアーカイブを調査するなかで、阿部雲気流研究所時代のものと思われる35ミリ・フィルムを新たに8本発見した。吊るし雲および笠雲を主に撮影したもので、富士山から雲を見下ろすかたちで撮影したものも含まれると思われる。当初の研究計画にはなかったが、これらのフィルムもデジタル化し、調査の対象に含むことにする。
本年度の主な課題であるシンポジウムの開催に向けて、準備を進めている。パリで新たなフィルムが見つかったことを受けて、フランス・シネマテークとの共催のもとパリでシンポジウムを開くことを予定している。当初の予定通り、阿部正直のフィルムを中心に、映画史・ドキュメンタリー制作・写真技術史・美学・情報工学の観点から議論する。シンポジウムにあわせて、新たにデジタル化した阿部正直の映画の上映も予定している。
これらの研究成果をまとめる形で、日本の一般公衆に向けた本研究の成果発表として、年度末に東京大学総合研究博物館インターメディアテクにて、映像上映およびシンポジウムを予定している。

次年度使用額が生じた理由

デジタル化した映像の編集の為に謝金を計上していたが、初年度に発表した映像インスタレーション「CLOUD BOX」のために映像編集をすでに行ったため、本年度は支出しなかった。これを、最終年度に完成させるデータベース作成およびその構築に充てる予定である。

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公開日: 2019-12-27  

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