2018年度は、先行研究や初期作品の分析とともに、国内外で開催された個展や関連グループ展を調査した。 8月にフランスのル・ピュイ=サント・レパラードのシャトー・ラ・コストで開催されたソフィ・カルの個展「DEAD END」を調査し、同施設の企画担当者に、展覧会や作品についてのヒアリングを行った。同展では、新作や近作とあわせて旧作となる《墓》や《限局性激痛》(フランス語版)を詳細に実見調査した。本展は、カルが近年取り組んできた、身近な家族の生と死についてのテーマを掘り下げた一つのプロジェクトとしてのみならず、彼女が制作を通じて探求してきた、死や喪失、愛という普遍的かつ個人的なテーマの結実として見ることができる点で、極めて重要な展覧会であるといえる。本調査の成果は学部発行の紀要に発表した。あわせてマルセイユ現代美術館での企画展に出展された所蔵作品を調査した。 10月には、パリのギャラリー・ペロタンで開催された個展「Parce que & Souris Calle」で、写真とテクストの関係を考察した最新作の調査と資料の収集、関連作家の調査を行なった。 また、翌年に原美術館で開催された「ソフィ・カル-限局性激痛 原美術館コレクションより」展では、《限局性激痛》(日本語版)に関する作品調査を行なった。本展は、1999-2000年の同館での展示を再構成したものであるため、作品の配置・展示構成について調査する貴重な機会となった。さらに、同時期に東京の二つのギャラリーで開催された個展に際しても、作品および展示構成について調査した。日程の都合で作家本人へのインタビューには至らなかったものの、一連の現地調査から、場所や空間を意識しつつ、出展作品や展示構成の決定に、作者が細心の注意を払っていることが把握できた。地域や場所に対する作家の関心は、ソフィ・カルの研究に新たな示唆を与えるものとなるに違いない。
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