本研究の目的は、高齢者インプロ(即興演劇)実践において、高齢者自身が主体的にファシリテーション技術を高めていくためのプロセスモデルを構築することであった。 まず、国内外のインプロ理論・方法論、インプロ実践研究を整理したほか、ファシリテーションに関する他領域の先行研究を整理した。また、インプロの創始者キース・ジョンストンのワークショップにて参与観察調査を実施し、高齢者インプロ実践に求められるファシリテーション技術の実践上の特徴を探った。 そして、国内アクション・リサーチとして、高齢者インプロ集団「くるる即興劇団」にてワークショップを毎月2回、一般公開パフォーマンスを年2回開催した。ワークショップでは劇団員が持ち回りでファシリテーションを行う機会を、パフォーマンス時には劇団員がディレクション(演出)を担える機会を複数設定し、そこで起こったことを記述するとともに、インタビュー調査を実施し、劇団員のファシリテーションに対する意識変容のプロセス、及び段階的にファシリテーション技術を向上させうる方法を見出すためのデータを収集した。加えて、身体的理由から会場に来られなくなった劇団員の自宅での「出張稽古」実践を通して、様々な身体的特性を有する高齢者も参加可能なファシリテーションのあり方について検討した。2020年度、新型コロナウイルスの影響により対面実践を中断せざるを得なくなった代替措置として、はがきを活用した即興演劇実践を開発し、月1回継続した。 以上を通して、高齢劇団員が「ファシリテーター」になっていくプロセス、及び高齢者のファシリテーション技術向上のために求められる支援のあり方について考察した。本研究の意義及び重要性は、高齢者自身がファシリテーター/演出を担い、自らの表現のあり方やその特性を「当事者」の視点から検討した作品創造によって、新たな高齢者演劇の可能性の探究に貢献できた点にある。
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