研究課題/領域番号 |
17K13375
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
埋忠 美沙 早稲田大学, 付置研究所, 研究員 (20468846)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 西南夢物語 / 西南雲晴朝東風 |
研究実績の概要 |
本研究について2017年度は、従来から研究をおこなってきた東京における西南戦争劇の代表作・河竹黙阿弥作「西南雲晴朝東風」の調査をさらに進めた。また新たに上方における西南戦争劇・勝諺蔵作「西南夢物語」について、台本の他、各種周辺資料(番付・新聞・雑誌)を収集・分析した。終戦直後に、ほぼ同時に違う土地で上演された二作の比較を通じて、作者と地域間による西南戦争および西郷隆盛観の相違が詳らかになりつつある。 また、黙阿弥および明治期の歌舞伎に関連して、広く二つのテーマで学会発表をおこなった。第一に、コロンビア大学国際ワークショップ「JapaneseTheater,Publishing,Culture,and Authorship」(2018年3月2・3日、於NY・コロンビア大学)では「歌舞伎の作者――幕末から明治を中心に――」というテーマで、河竹黙阿弥を中心に江戸歌舞伎の作者制度を分析、さらに明治期の「版権登録」や「著作権裁判」にいたる流れを分析し、西南戦争劇が流行した当時の劇界の事情を詳らかにした。第二に、日仏演劇学会「Corps et message-De la structure de la traduction et de l'adaptation」(2018年3月21~23日、於フランス・ストラスブール大学)では「歌舞伎における翻案――河竹黙阿弥の作品を中心に――」というテーマで発表した。西南戦争劇が流行した明治11・12年頃は、歌舞伎が西洋と接近した時代である。当時の劇界の詳細を、黙阿弥が描いた翻案劇を中心に詳らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「西南雲晴朝東風」の研究を深化させたことはもとより、新たに「西南夢物語」に関する資料調査を集中しておこなえたことは、当初の目標通りである。両作を比較分析することで、作者・地域などによって、西南戦争および西郷隆盛の認識が異なるのか詳らかになりつつある。ただ「西南夢物語」の台本について未だ完本を見付けることができておらず、これは2018年度に持ち越された課題である。 一方で、西南戦争劇が流行した当時の劇界の事情を西南戦争というテーマを超えて分析できたことは、今後戦争劇の研究を深化させるうえで重要な成果となった。 当初の研究計画以上の成果であり、これらを総合して「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、第一に、2017年度の調査研究の結果を学会発表および論文で広く発表する。第二に、他の西南戦争劇の調査をおこない、演劇史において、戦争劇(戊辰戦争、日清・日露戦争)のなかで西南戦争劇を位置付けることを目指す。第三に、調査対象を維新劇にも広げ、演劇において西郷隆盛がいかに描かれてきたのか分析する。具体的には、江戸以来の狂言作者の手による終戦直後の作品のみならず、真山青果・岡本綺堂・池田大伍・高安月郊・等、近現代の劇作家が手がけた戦前までに初演された演劇全般を研究対象とする。 2018年はNHKの大河ドラマ「西郷どん」が西郷隆盛を扱っていることもあり、様々な媒体で西郷および西南戦争の情報を目にする。こうした状況において、本研究の成果を、演劇のみならず歴史・文学・美術等、他ジャンルにも応用可能な形で広く発信することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった図書が不要になり、次年度使用額が生じた。2018年度に異なる図書を購入予定である。
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