研究課題/領域番号 |
17K13388
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
大坪 亮介 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (10713117)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中世文学 / 太平記 / 高野山 |
研究実績の概要 |
今年度は、「現在までの進捗状況」の項で述べたように、研究の遂行に遅れが生じた。そうした状況ではあるが、高野山大学図書館にて『頼円師記』という資料を確認できたことは一つの収穫であった。本資料についての専論はないと見られる。その上、高野山大学図書館に複写依頼をしてから実際に複写物が届くまで、三ヶ月程度の期間を要したため、いまだ当該資料の詳細は明らかではない。本資料に記される頼円が、本研究で研究対象とする頼円その人かどうかという点にまで立ち返り、慎重に考察を進めていく必要がある。とはいえ、本資料は醍醐寺三宝院流に関わる記述を含む上、南朝天授三年(1377)の年号も見える。こうした記述は、先行研究で指摘される頼円をめぐる環境とも重なると思われる。以上から、本資料は従来あまり注目されてこなかった頼円に関わると思われ、本研究当初の目的である、一心院における文芸生成の実態に迫る上で有益な資料である可能性が高い。当該資料の分析と同時に、今後も関連資料の探索を進めていきたい。 一方、本研究を着想する端緒となった『太平記』における真言関係記事に関しては、研究発表とそれに基づく論文刊行という成果が得られた。すなわち、従来出典が指摘されてこなかった『太平記』巻三十五「北野通夜物語」の説話が、実は弘法大師伝の一つ『高野山大師行状図画』を典拠としていることを明らかにした。さらに典拠の存在を視野に入れることにより、説話引用の文脈が浮かび上がってくることを指摘した。『高野大師行状図画』が『太平記』巻十二の説話の典拠であることは以前より知られていたが、新たに「北野通夜物語」でも該書の利用が明らかとなった。これは真言と『太平記』との関わりを考える上で注目すべき事例といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画において、平成30年度後半は、一心院僧と関わりが深い僧「頼円」の名が奥書に見える資料(親王院本『高野物語』・西大寺本『妻鏡』)を分析するとともに、高野山大学図書館等の資料探索を行い、中世一心院における文芸生成の様相の解明に努める予定であった。しかし本年度は、『太平記』に関する学術図書を執筆し、研究成果公開促進費に応募する準備とも重なったため、一心院に関する研究の遂行には遅れが生じた。「研究実績の概要」欄で述べたような一定の研究成果を上げることはできたものの、考察対象とする予定であった資料の詳細な分析にまでは手が及んでおらず、当初の計画からすると進捗に遅れが生じていることは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定からすれば進捗に遅れが生じているものの、最終年度となる平成31年(令和元年)度も、研究計画の通り親王院本『高野物語』と西大寺本『妻鏡』に加え、『妻鏡』を依拠資料とする文献の分析を行い、一心院における文芸生成の内実を探っていく。まずは親王院『高野物語』や西大寺本『妻鏡』奥書に見える観勝寺奥房の頼円が、本研究で対象とする一心院ゆかりの頼円と同一人物かどうか、『頼円師記』等の文献によって慎重に検討を加える。さらに頼円と醍醐寺三宝院流、伊勢における西大寺流の律、両部神道との関わりに注目し、頼円周辺の環境を具体的に明らかにしていく。以て本研究の目的である一心院における文芸生成の様相に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「実績報告書」に記載の通り、本年度は当初の予定よりも研究の遂行に遅れが生じた。とりわけ、西大寺本『妻鏡』に関する資料調査・分析がじゅうぶんに行えていない。そのため、次年度使用額が発生した。これについては、主として西大寺本『妻鏡』の分析および関連資料調査のための資料代・旅費に充てる予定である。
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