本研究は、明治期政治小説の代表的な書き手である宮崎夢柳の小説・漢詩を主な研究対象とし、女性表象の変遷と特質および、同時代の自由民権論・女権論との連関性を、明治初期の文学史と思想史の複合的状況から検討するものである。最終年度にあたる令和元年度の成果は、以下のとおりである。 (1)夢柳の特色の一つである草双紙的な恐怖の表現に焦点を当て、恐怖の表現史の観点からその近代性について検討した。その成果は、日本近代文学6月例会(2019年6月22日)にて報告した他、研究論文として公刊を予定している(入稿済み)。 (2)福田(景山)英子についての諸言説を整理した上で、『妾の半生涯』および「世界婦人」に掲載された英子の論説や雑記を明治社会主義の文脈において捉え直し、その戦略性について考察した。その成果は、「福田英子の「戦ひ」――〈私〉から〈公〉へ」(「駒澤國文」2020年2月)に発表した。 (3)女性像と「自由」の概念に関する調査の一環として昨年度から取り組んできた平林たい子について調査を進め、階級闘争と女性解放をめぐる平林の思想について検討を行った。その成果は、2019年12月22日に奈良女子大学にて開催した「革命とジェンダー研究会」にて報告した。今後、内容を修正の上、研究論文として公刊を予定している。 研究期間全体を通じて、夢柳のテクストが従来考えられてきた以上に同時代の思想的文脈(土佐自由民権運動や女権論等)と密接に関わっていることを明らかにしつつ、そのなかで女性表象が果たした役割をジェンダーの視座から明らかにした。具体的な研究実施計画には適宜修正を加えたが、夢柳の女性表象の特質を明治初期の文学史・思想史から明らかにするという当初の目的は概ね達成された。また、女性思想家・活動家についても調査を進め、政治とジェンダーを視座として自由民権運動から社会主義への文脈を辿る構想を得た。
|