研究課題/領域番号 |
17K13395
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
北林 茉莉代 大正大学, 文学部, 非常勤講師 (00796063)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近世唱導 / 唱導文芸 / 類書 / 書誌学 / 寺院資料 / 書誌学 |
研究実績の概要 |
本研究は、江戸時代刊行の唱導資料『類雑集』の引用文献を整理し、諸本の分析を進めることで、「生成の背景」「受容の在り方」「作者圏」について考察することを目的としている。 平成三十年度は、「索引作成」「関連資料の収集」「発表」を行った。 まず、「索引作成」として、『類雑集』巻一~巻十に登場する出典をExcelファイルにまとめた。ファイルには、「出典(本文)」の項目に本文表記の書名(略称)を、「出典(正式名称)」に書名の正式名称を、「引用箇所」に引用部分の丁数・行数を、「話題」に各話のタイトルを、「巻数」に何巻かを、「門」に門名を、「話数」に第何話目かを、「SAT番号」に大正新脩大藏經テキストデータベースの番号を、「備考」にその他の情報を入力した。現在、十巻分のデータを取り終わり、書名索引として利用できるよう確認作業を進めている。今後この索引を分析することによって作者の蔵書リストが明らかとなり、また、使用頻度の高い文献から作者の思想を捉えることが可能となる。本索引は、江戸時代における版本の生成現場を考えるうえで重要な資料となる。 つぎに、「関連資料の収集」を行い、『類雑集』の版元に関する出版目録や先行研究論文を整理した。慶安四年版の版元「石黒庄太夫」は、元々「菊屋勝太夫」名義で本能寺内に在していたが、改名を重ねるとともに活動拠点を寺院外へ移したこと、明暦三年版の版元「秋田屋平左衛門」は『類雑集』の他にも石黒後印本を出版していることなどを報告した。これらは、出版時点での日蓮宗寺院の関わりを示唆する点で重要である。 さらに、表現に関する分析を「発表」した。ここでは、『類雑集』全十巻の敬語表現を抽出後、独自の敬語を分析することで、日蓮宗関係者やその著作物へ敬意が払われている点に留意を促した。表現からも作者圏に関わる記述が確認できた点は、本作品への日蓮宗関与の傍証となる点で重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、平成二十九年度から令和二年度(申請時の名称:平成三十二年度)までの四箇年計画である。 当初は、平成二十九~三十年度に全十巻の「索引作成」を行い、令和元年度に「索引分析」を行う予定であった。しかし、前年度の報告にも記述したように、作業者の固定化や作業期間の短期化によって質を向上させるため、平成三十年度の一年間で索引を作成した。今年度中に全十巻の索引データを取ることができたため、来年度は「索引分析」の段階へ移行する。 「伝本調査」は、旧彰考館蔵本、無窮会専門図書館神習文庫蔵本、立正大学図書館蔵本、ハーバード燕京研究所蔵本が残されているが、旧彰考館蔵本は散佚したと考えられるため、残り三本である。平成三十年度は「伝本調査」を行うことができなかったが、令和元年度には無窮会専門図書館神習文庫蔵本、立正大学図書館蔵本を調査予定であり、国内の現存諸本を網羅することになる。 「発表」では、『類雑集』の表現に関する口頭発表を行ったほか、それを基に論文を発表した。 以上のことから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
残り二箇年も、『類雑集』の本文や索引を分析しつつ、近世唱導資料の「生成」と「展開」の様相を探っていく。 令和元年度は、主に「索引分析」「伝本調査」「発表」を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、実地踏査や学会に伴う旅費が発生しなかったこと、撮影費が生じなかったこと、DVD-ROMを購入しなかったこと、以上の三点である。 次年度、旅費、撮影費、物品購入費などに使用する予定である。
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