本研究は、慶安四年(1651)・明暦三年(1657)に刊行された『類雑集』(全十巻)を研究対象とする。本研究の目的は、『類雑集』の「生成の背景」「読者層」「作者圏」などを想定することである。具体的な作業としては、「索引作成」「本文分析」「伝本調査」「成果発表」がある。これらをとおして本文を丹念に検証することで、「近世において唱導資料がどのように生成あるいは再生成されたか」、その一端を垣間見ることが可能となる。それが、ひいては「近世唱導資料」の研究の活性化につながるものと考える。 最終年度は、とくに「索引作成」「本文分析」に注力した。これまで、『類雑集』の引用文献を「書名索引」として発表できるよう、情報を精査し、項目名や表記の統一、別名の統合や紐付け、項目削除などの作業を行ってきた。今年度は発表に向け、さらに体裁を整えた。この索引により、作者が所有あるいは閲覧した資料群を把握することができた。さらに、「本文分析」として、各文献の使用頻度や資料群の特徴を検討した。詳細については、現在発表準備中である。また、とくに注目すべき本文の「表現」として「蛇」を取りあげ、口答発表を行った。今後、論文として発表予定である。 引用文献の分析から、『類雑集』が「日蓮宗総本山身延山久遠寺周辺で作られた可能性」が考えられる。また、これまでの「伝本調査」で確認できたように、現存する『類雑集』の書き入れからは「日蓮宗の信徒やそれに近しい読者」の存在が想定される。この二点から、『類雑集』が刊行された背景には「特定の宗教教団が存在し、教化の意図を以て生成・再生成を行った」と推測することができる。このことは、近世において出版活動や布教活動が「唱導資料の生成」に深く関わったことを意味している。「索引作成」「本文分析」「伝本調査」の作業をとおして、それらを実証的に検証したことが、本研究の意義および重要性である。
|