研究課題/領域番号 |
17K13396
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
村上 祐紀 拓殖大学, 政経学部, 准教授 (20758239)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 森鴎外 / ドイツ / キリスト教 / 賢者ナータン |
研究実績の概要 |
2019年度に森鴎外の作品「鎚一下」とドイツ系プロテスタント神学である普及福音教会との関係を論じたが、2020年度は接続する問題意識として鴎外のレッシング受容・理解について論じた「森鴎外「レッシングが事を記す」」を発表した。既に2019年度の調査成果として、赤司繁太郎を中心とする普及福音教会が鴎外に与えた影響については論じていたが、さらに本論では「レッシングが事を記す」という鴎外が書いたレッシングの伝記と、ドイツにおけるレッシング受容を比較することによって、いかに鴎外が正確にレッシング、とりわけ戯曲「賢者ナータン」に示される思想を正確に理解していたかを明らかにした。 さらに今年度は、近代日本におけるプロテスタンティズムがもたらした影響を考えるため、キリスト教社会主義者として知られる木下尚江の作品にも研究対象を広げた。近代日本のキリスト教受容の過程で必ず議論にのぼってきた、「霊」「肉」の二項対立を木下尚江がどのように扱っているのかを考えるため、小説『霊か肉か』に着目し、明治キリスト社の公共性の一つのあり方として本作を位置付けた。木下尚江は、普及福音教会の赤司繁太郎とも交わり、共同で雑誌を発刊したことでも知られている。「新神学」として異端扱いされた普及福音教会だが、英米系のキリスト教とは異なる形で、近代日本の公共性に大きな影響をもたらしたことが明らかとなった。赤司繁太郎に関する研究もほとんど進んでいないため、基礎調査も含めて継続していく必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は延長によって海外調査の費用を確保していたものの、感染症の影響により海外・国内での資料調査は全く行うことができなかった。その点では遅れが生じているといえる。ただ前年度までに行っていた調査をもとに、論文を発表できたことは成果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初は森鴎外における歴史叙述を考える上で、ドイツプロテスタントにたどり着いたが、こうした視座は近代日本におけるキリスト教受容を考える上でも重要になると考えるに至った。そのため、今後はキリスト教受容という観点から、木下尚江などに研究対象を広げていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染症のため、国内外の移動が制限され、研究調査出張に行くことができなかったため。次年度も同様の状況が考えられるため、図書購入などにかえる形で調査を行う予定である。
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