2020年度はドイツプロテスタント神学への関心として鴎外のレッシング受容・理解について論じたが、2021年度は継続課題として、ドイツ・ロマン主義と鴎外作品との関連について論じた「美しい目の視線は遠い、遠い所に」―森鴎外「安井夫人」とドイツ・ロマン主義」を発表した。 これまで、ドイツからもたらされた自由主義神学普及福音教会とその牧師赤司繁太郎について、レッシングに対する関心を手がかりに、鴎外との接点を論じてきたが、本論文はその延長にあるものである。日本におけるドイツ・ロマン主義受容の比較的早い時期に赤司がこれらを紹介しているということに加え、その後、赤司が神話・古伝説の翻訳に継続的に取り組んでいくことに着目し、こうした動きに、鴎外が論じていた「神話」の問題を考える契機があるのではないかと考えた。その上で、鴎外の作品中、特徴的な女性像を示している「安井夫人」に注目し、登場人物である実在の人物安井佐代の造形に、ドイツ・ロマン主義における「愛」の概念の影響を読み解いた。 また前年度より研究対象としてきた、キリスト教社会主義者として知られる木下尚江の作品についても、継続して検討をしてきた。木下尚江は赤司繁太郎とも交わり、共同で雑誌「新紀元」を発刊したことでも知られており、その雑誌に鴎外が翻訳作品を寄稿していることも注目される。赤司繁太郎に関する基礎的な研究と合わせ、雑誌「新紀元」の基礎調査も含めて継続していく必要があると考える。
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