本研究は、信仰を失った近代において、鴎外や近代知識人たちが新たな「連帯」の可能性を、ドイツ・プロテスタンティズムの文脈に見出していたことに着目し、「歴史」と「神話」の問題を検討したものである。鴎外が関心を寄せた普及福音教会とその牧師赤司繁太郎について、ドイツ文学・哲学の受容を手がかりに、その影響関係を論じてきた。キリスト教社会主義者であった木下尚江の作品についても検討した。そうした検討を通し、鴎外の「神話」という概念は、単なる「歴史」と対立項以上に近代の根源にかかわる重要なものであったことが明らかとなった。
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