研究課題/領域番号 |
17K13398
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研究機関 | 皇學館大学 |
研究代表者 |
小堀 洋平 皇學館大学, 文学部, 助教 (30706643)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 比較文学 / 自然主義 / 田山花袋 / 島崎藤村 / メレジコフスキー / ドストエフスキー / 書物流通 |
研究実績の概要 |
1)田山花袋記念文学館所蔵花袋旧蔵洋書の調査:田山花袋記念文学館にて花袋旧蔵洋書の調査を実施した。その際、調査対象を花袋から島崎藤村に貸与されたメレジコフスキー『人および芸術家としてのトルストイ』(英訳版)およびその関連文献に絞り、作業の効率化を図った。同書の線引き箇所と読了日の書き込みから、海外文学書の貸借を通じて花袋と藤村のあいだに同時代文学に対する問題意識の共有が行われていたことが明らかとなった。 2)花袋周辺作家の外国文学書貸借をめぐる記述の整理:これまでの研究成果を基礎に、本年度の研究内容を新たに追加した単著『田山花袋 作品の形成』(2018年2月、翰林書房)を刊行した。本書は、1890年代初頭の出発期から『時は過ぎゆく』にいたる田山花袋の重要作品について、 海外文学の受容と執筆過程の実態を検証することにより、その文学的営為の内実を解明したものである。また、ドストエフスキーにかかわる文献の貸借関係について、学会発表「花袋のドストエフスキー受容」(花袋研究学会第99回例会、2018年1月20日)にて報告した。 3)「小法官」自筆稿本をめぐる事例研究:「小法官」自筆稿本について、翻刻原稿を作成した。翻刻原稿の作成は、今後、翻訳底本との比較、および同時代におけるアラビアン・ナイト受容状況への本稿本の位置づけ等の作業を実施するための基礎づけとしての意義を有する。 なお、この他に花袋の初期紀行文における漢文学の摂取について、一般向けの講演「田山花袋「志摩めぐり」の風景」(三重県生涯学習センター×皇學館大学×志摩市協働講座、2017年6月11日)と「田山花袋『南船北馬』に見る熊野の風景――「北紀伊の海岸」と「熊野紀行」――」(早稲田大学オープンカレッジ東紀州地域振興公社協力講座「熊野が生んだ作家たち―その風土と歴史」、2018年2月3日)において解説した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)田山花袋記念文学館所蔵花袋旧蔵洋書の調査:花袋と藤村の間で貸借された洋書を中心に調査を行った。特にその書き込み部分については、撮影を実施してデータ化することにより、今後の研究の便を図った。当初計画していた網羅的調査とは異なるものの、花袋旧蔵洋書群における同時代作家との貸借関係にかかわる問題点を具体化することができたと考える。 2)花袋周辺作家の外国文学書貸借をめぐる記述の整理:単著『田山花袋 作品の形成』を刊行し、蒲原有明・国木田独歩・長谷川天渓・前田晁といった周辺作家と花袋のあいだでなされた外国文学書貸借の実態を解明することができた。また、特にドストエフスキー関連文献の貸借について重点的に取り組み、学会発表「花袋のドストエフスキー受容」にて報告した。 3)「小法官」自筆稿本をめぐる事例研究:架蔵資料にもとづき翻刻原稿を作成した。これにより今後の論文化の基礎づけが行われたものと考える。 なお、当初は海外文学書として主に西洋文学関係の文献を想定していたが、研究過程で重要性が明らかとなった漢籍の花袋初期紀行文への影響についても、その概要を一般向けの講演のかたちで発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
30年度には、29 年度に実施した花袋周辺における外国文学書流通・受容の実態解明という比較的ミクロな視点からの調査・研究の成果を、よりマクロなレベルでの文学場の形成に関する知見へと発展させるべく、丸善の機関誌『学鐙』洋書目録欄の調査を行う。 また、29年度には対象を限定して実施した田山花袋記念文学館所蔵花袋旧蔵洋書の調査については、その範囲を拡大して再調査を行う。その際、29年度に調査したメレジコフスキーと関連の深い、トルストイとドストエフスキーをはじめとするロシア文学書を優先的に検討することにより、蔵書調査の段階的・体系的な発展を図る。これに関連して、既に論文「花袋のドストエフスキー受容――平面描写論を契機とする評価の転換――」とその続編「田山花袋のドストエフスキー受容――「社会」重視への反発から史的位置づけへ――」、関連論文「田山花袋における「平面描写」論の一基盤――短編小説「不安」に触れつつ――」をほぼ執筆済みであり、査読誌への掲載を計画している。他にも、花袋の海外文学受容をめぐる論文として、「田山花袋「髪」における水と死のモチーフ――イプセン「ロスメルスホルム」との比較から――」を『花袋研究学会々誌』に発表予定である。 「小法官」自筆稿本をめぐる事例研究については、作成済みの翻刻原稿を基礎に、翻訳論の観点も取り入れて論文化を期する。 なお、花袋周辺作家の外国文学書貸借をめぐる記述の整理は、各種作家全集に加え、同時代の雑誌・新聞等も参照してひきつづき実施する。
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