研究課題/領域番号 |
17K13398
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研究機関 | 皇學館大学 |
研究代表者 |
小堀 洋平 皇學館大学, 文学部, 准教授 (30706643)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 比較文学 / 自然主義 / 田山花袋 / 書物流通 |
研究実績の概要 |
1)田山花袋周辺作家の外国文学書貸借をめぐる記述の整理:前年度より継続して、花袋とその周辺作家とのあいだに行われた外国文学書の貸借の実態について、調査・検討した。その成果として、2つの論文、「田山花袋「髪」とイプセン「ロスメルスホルム」――水と死のモチーフを中心に――」(『花袋研究学会々誌』35号、2018年6月)と「田山花袋における「平面描写」論の一基盤――短編小説「不安」に触れつつ――」(『解釈』64巻7・8号、2018年8月)を発表した。 前者では、柳田國男・蒲原有明らとともに開催した「イプセン会」の活動をとおして、花袋がいかにしてこの北欧の劇作家に対する自身の理解を形成していったかを確認し、特にイプセンのリアリズムからシンボリズムへの転換点に位置するとされる戯曲「ロスメルスホルム」が、後の花袋の長編小説「髪」に与えた影響を検証した。 後者では、日本自然主義の代表的描写論のひとつと目される花袋の「平面描写」論について、その理論展開が、花袋の理論・作品をドストエフスキイと比較して批判した内田魯庵との論争によって規定された側面をもつことを論証した。 2)『学鐙』洋書目録欄の調査:丸善より刊行された雑誌『学鐙』に毎号掲載された新着洋書目録について、特に花袋周辺における外国文学の受容が文学史的に重要な意義をもったと考えられる、創刊(1897)から20年前後の期間を中心として調査を実施した。本調査は、丸善雄松堂によるデジタル版『学鐙』によって、従来の予定より大幅に効率化することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)田山花袋周辺作家の外国文学書貸借をめぐる記述の整理:花袋と周辺作家とのあいだでなされた外国文学書貸借の実態の検証を基礎として、海外文学が花袋の理論と創作に与えた影響について、2つの論文を発表した。ひとつはイプセンの戯曲と花袋の長編小説に関するもの、もうひとつはドストエフスキイをはじめとする西洋諸作家と花袋の描写論との関係を論じたものである。なお、後者は全国規模の査読誌に掲載された。 2)『学鐙』洋書目録欄の調査:デジタル版『学鐙』を活用することにより、当初の予定より作業の大幅な効率化が可能となった。目録のみならず、海外文学関係の諸種のエッセイ・記事類についても同時並行で調査を進め、翌年度の学会発表・論文執筆のための基礎資料として整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)田山花袋周辺作家の外国文学書貸借に関する調査を基礎として、以下の論文を発表予定である。①「花袋・メレシコフスキイ・藤村――『人および芸術家としてのトルストイ』の貸借をめぐる基礎資料――」(『田山花袋記念文学館研究紀要』31号)では、同館所蔵のメレシコフスキイ『人および芸術家としてのトルストイ』(英訳版)に見られる書き込みについての報告を軸として、花袋と藤村のメレシコフスキイを介したトルストイおよびドストエフスキイの受容について論じる。②「「平面描写」論以前における田山花袋のドストエフスキイ受容――「熱烈なる思想」と「自動的自然主義」――」(『花袋研究学会々誌』36号)では、花袋の出発期から1908年の「平面描写」論提唱までの時期におけるドストエフスキイ受容を整理し、それが従来考えられていたよりも肯定的色彩の濃いものであったことを論じる。③「一九一〇・二〇年代における田山花袋のドストエフスキイ受容――史的意義肯定への道――」(『文藝と批評』12巻9号)では、「平面描写」論以降における花袋のドストエフスキイ評価の変遷について、花袋の社会主義観との関係から論じる。なお、論文②と③は、30年度に発表予定であった論文を加筆・修正したものとなる。 2)「小法官」自筆稿本については、その翻刻と解題を「田山花袋「小法官」翻訳稿本――『アラビアン・ナイト』受容の一資料――」として査読誌に掲載予定である。 3)花袋訳『コサアク兵』をめぐる事例研究については、2018年3月に同様のテーマを扱った高野純子「『コサアク兵』における他者・自然との対峙-心は只山を思へり―」(『田山花袋記念文学館研究紀要』30号)が発表されたため、同論文とは異なる角度からのアプローチを検討する。具体的には、同論文で網羅的には論じられなかった、草稿における推敲の傾向について分析することを計画している。
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