研究課題/領域番号 |
17K13406
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 博之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50780392)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 米文学 / 映画 / 空間 |
研究実績の概要 |
本研究はおもに第二次世界大戦後の現代アメリカ合衆国南西部の小説および映画作品における空間や場所の表象について考察するものである。文学作品と空間との関係は近年複数の立場から注目を集めるようになってきた研究領域であり、最近の研究動向を踏まえたうえで言語や映像によって構成される物語作品が空間や場所をどのように構築するのかという主題に着目する。複数の小説と映画作品を分析対象とし、テクストがどのように物語内の空間を形成しているか、および物語内の空間とフィクションの外側に先行して存在すると考えられる現実世界の空間とがどのような相互関係を持つかという理論的な問題を考察すると同時に、現代のテクストが先行する西部・南西部をめぐる物語(とくにウェスタンというジャンル)をときに反復し、ときに書き換えながら物語空間を形成していく様子を個別的に検討することを目的としている。 本年度は文学研究や人文地理学の分野における空間性をめぐる理論的な研究の整理、合衆国南西部の空間をめぐる歴史的な背景の整理、コーマック・マッカーシーやレスリー・マーモン・シルコウなどの個別の作家のテクストについての分析を中心に進めた。いずれもまだ草稿段階ではあるがすでに原稿としてかたちにしている。本研究の成果はやがて英語で書かれた書籍として出版することを目指しており、今後はすでにある原稿の改稿とほかのテクストについての論考の執筆を並行して進めながら、完成を目指すことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の1年目である本年度の作業は、まず文学・映画研究や人文地理学、その他の分野で蓄積されてきた空間についての先行研究を整理することから始めた。複数の理論的な研究を比較しながら共通点を抽出し、空間や場所が物語の背景として静的に存在するだけではなく、物語のテクストによって構築されるものであることを確認した。同時に合衆国南西部の空間が歴史的にどのように構築されてきたかも検証し、地理的区分として存在するかのように見えるこの地域それ自体が実際にはさまざまな政治的な経緯と言説によって形成されたものであることを確認した。これらの議論は本研究の土台となるイントロダクション的な論考としてすでに原稿にまとめている。 それと並行して、すでに学会発表などのかたちで執筆に着手していたコーマック・マッカーシーの『越境』や『老いた者の住む国ではない』、レスリー・マーモン・シルコウの『死者の暦』についての分析を発展させ、まだ草稿段階ではあるが原稿として最後まで完成させた。年度末には他大学で開催されたアダプテーションについてのシンポジウムにおいて、マッカーシーの小説とその映画版についての短い報告をおこなった。 これらは初年度の研究計画として予定していたものであり、おおむね順調に研究が進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初より本研究は書籍としての出版を目標としておこなっているため、研究の2年目はすでに執筆した論考の改稿に加えて、さらにほかのテクストについての分析を進めていくことが中心的な作業となる。2019年度はとくにコーエン兄弟やトミー・リー・ジョーンズの監督した映画作品を先行する古典的なウェスタンとも対比しながら分析し、その成果を論文の原稿として完成させる。 対象とするすべてのテクストについての分析が草稿としてそろったら、書籍化できるように改稿を繰り返して全体の完成を目指す。同時に近い分野で近年出版された研究書と対比しながら本研究の独自性を強調できるようにし、年度中に合衆国のいくつかの大学出版局に企画書と原稿を送ることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の使用額として若干のあまりが生じたため、2年目の物品費の一部として研究書の購入などに充当する。
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