本研究は現代アメリカ合衆国南西部の小説および映画作品における空間と物語との関係を分析対象とする2年間の計画である。昨年度は文学研究や隣接する研究分野における空間についての理論的な枠組みの整理、およびコーマック・マッカーシーやレスリー・マーモン・シルコウの小説を対象とした具体的な分析を並行して進めた。 2年目となる今年度は前年度に執筆した草稿の改稿作業に加え、コーエン兄弟やトミー・リー・ジョーンズが監督した南西部を舞台とする映画を中心的な対象とし、関連する理論的枠組みを参照しながら詳細なショット分析を中心とする論考の執筆を進めた。加えて西部と特権的に結びついてきたウェスタンやフィルム・ノワール、ロード・ムーヴィーなどの映画ジャンルとの関連についての考察も織りこんでいる。これらの論考はまだ完成しておらず、次年度に改稿作業を続ける必要がある状態である。 また当初の研究計画にはなかったことであるが、これらの映画に関する分析作業に関連するものとして、ほかのテクスト(トマス・ピンチョンの小説『インヒアレント・ヴァイス』とポール・トマス・アンダーソンによるその映画版)についての考察をまとめた論文を執筆する機会を得た。この論文ではアンダーソンの映画がピンチョンの小説を創造的に再解釈しながらロサンジェルスの都市空間を映像で表現していく様子をいくつかのシークエンスの分析をとおして論じている。この成果は本年度末に出版された。
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