研究課題/領域番号 |
17K13407
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
高瀬 祐子 静岡大学, 大学教育センター, 特任助教 (30708433)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 所有 / マニフェスト・デスティニー / 領土拡張主義(Expansionism) / 独立宣言 / アメリカ |
研究実績の概要 |
平成29年度は、エドガー・アラン・ポー唯一の長編小説である『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』に関するトランスナショナル性を歴史的・文化的コンテクストから分析をおこなった。その過程で、ポーの本作から多大な影響を受けたとされ、本作同様にナンタケットの捕鯨船を舞台にしたハーマン・メルヴィルの『白鯨』における鯨の所有権に関する概念の描写にも注目した。両作品を「所有」(possession)というキーワードから読み解くことにより、海の上や南氷洋の島々を舞台にした作品でありながら、土地獲得の過程や所有権に関する描写にはアメリカ本土における領土拡張主義政策の影響が色濃く見られ、2人の作家が所有に関する曖昧性や抽象性をあぶり出している様子が見られた。両作品がどちらもアメリカの国土で展開する物語ではなく、海の上や島を舞台にしている点から、マニフェスト・デスティニーに表出する領土拡張が、モンロー・ドクトリンに続き、すでに陸を越えるグローバルな概念であることがわかる。 また、海洋小説である『ピム』や『白鯨』と同時に「独立宣言」や「マニフェスト・デスティニー」、『コモン・センス』などの分析を行い、本研究の研究目的であるアメリカ国家における土地獲得の欲望が陸から海へと渡る様子を多角的に考えることができた。この研究成果は、『成蹊英語英文学研究』第22号に “Possession in Nineteenth-Century American Novels of the Sea: The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket and Moby-Dick” というタイトルで論文を発表した。その他に執筆した論文は平成30年度提出予定の博士論文に収録する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度に予定していた『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』におけるネイティブアメリカンの混血児Dirk Petersに関する研究は、博士論文の提出が遅れたことと、研究を進める中で「島の土地所有権」という他のテーマへの興味関心が高まったため予定通りに進めることができなかった。しかし、本作品における島の描写に注目し、島に住む居住者の変遷を分析することは、結果として本研究の目的である「19世紀から現代を貫くアメリカ国家の土地獲得に対する欲望」に光を当てることができた。さらに、エドガー・アラン・ポーだけでなくハーマン・メルヴィルという同時代の作家の、捕鯨船を舞台にした『白鯨』における鯨の所有権に関する描写を並行して分析することにより、研究が新たな拡がりを見せたことは大きな収穫であった。 平成29年度にできなかったネイティブアメリカンに関する分析は、今度の研究計画で予定しているため、その際にDirk Petersに関する分析も再度取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、当初の研究計画から大きな変更はなく、継続してエドガー・アラン・ポーの作品におけるグローバリズムとナショナリズムを土地獲得や所有の概念から分析する。資料収集や文献整理と並行し、論文の執筆を中心に研究を進める予定である。 平成29年度に「島」という空間における土地所有の変遷について分析を行ったが、そこから発展させ、島を舞台にした作品である「黄金虫」や、ネイティブアメリカン表象に富んだ「使い切った男」等の作品研究に移る。両作品ともに奴隷が登場するため、奴隷という財産の所有権についても文献の収集と整理、分析を進める予定である。平成29年度のように、同時代の作家の作品に目を向けることで研究が好転することもあるため、引き続きハーマン・メルヴィルやナサニエル・ホーソーン等、19世紀の作家の作品にも注視したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
博士論文の提出を1年伸ばしたことにより、研究の進展が当初の予定より遅れ、調査の時期の延期や英文校閲費などに残額が生じた。 今後は、国内外における成果発表のための出張旅費ならびに英語論文の校閲費・投稿雑費として有効活用する予定である。
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