令和2年度は、前年度に分析を行ったPoeの“The Gold-Bug”について、場所性に注目し、継続して研究を進めた。場所性 “placeness” については近年注目されているテーマであり、本作の舞台となったサリヴァン島に注目すると、サリヴァン島はアフリカから黒人が奴隷船によって運ばれ、奴隷という財産として売買された場所である。一方で、本作の登場人物たちの欲望は、土の下に埋まっている財宝へと向かう。1845年にジョン・オサリヴァンが「マニフェスト・デスティニー」という言葉を用いて領土拡張主義を後押しし、19世紀後半のアメリカはフロンティア消滅へと向かうが、本作はその萌芽期とも呼べる1843年に出版されている。 本研究の目的は、「ポーの作品に潜む領土拡張主義や対インディアン政策に対する批判を明らかにし、土地や空間の獲得に対するアメリカ国家の欲望を分析する」ことであったが、ポーは本作において、入植者のように土地を切り開き、土を掘り起こし、財宝を探すルグランたち描く。地中に財宝が眠るという設定は、捕鯨絶頂期に出版された本作から、16年後の1859年にペンシルヴァニア州のタイタスビルで油田が発見されたことすら想起させ、欲望の矛先が移りゆくことを予見するかのようである。 ポーが陸軍の兵士としてほんの数年間過ごしたサリヴァン島は、黒人を奴隷という財産へとtransformさせた歴史を持つ島であったが、そこを舞台にポーはアメリカの国家的な欲望が西だけに向かっているのではないことを示している。ルグランたちは、元奴隷のジュピターを従え、入植者たちによる開墾を模倣し、地表だけでなく地下に眠る財宝を掘り当てる。アメリカ国家における土地への欲望は、建国以前から現代へと続き、国家建設の基盤となっているといえる。
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