本研究では、主に英国小説における意識描写の歴史的変遷の一端を、自由間接思考(Free Indirect Thought: FIT)の形式・意味の通時的な変化に焦点を当てて考察した。特に、先行研究の少ないモダニズム前後の作品を中心に分析を行った。主な研究成果は以下の通りである。(1)FITが再現する意味領域が思考レベルから知覚レベルにまで拡張していくにつれて、登場人物の知覚・思考レベルの意識の交錯が、語り手の媒介を通さずに描かれる傾向が顕著になること、(2)FITが、形を整えていない流動的な意識を、書き言葉の口語化を通して(話しことばの形式的特徴を活かして)再現する手法を獲得していくこと。
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