研究課題/領域番号 |
17K13413
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
市川 純 日本体育大学, 体育学部, 助教 (70507970)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ペルーのスペイン人 / コツェブー / 翻訳 / ドイツ / ゴシック / 植民地 / ピサロ |
研究実績の概要 |
既存のイギリス・ロマン派文学研究においてこれまでほとんど考察されてこなかったものの、極めて重要な意義を持つペルーの表象について、今年度は特にこの時代にシェイクスピアを凌ぐ上演回数を誇って爆発的人気を引き起こしたアウグスト・フォン・コツェブーの悲劇『ペルーのスペイン人』(1795)について研究を行った。 1795年にドイツで出版された本作(Die Spanier in Peru)は、1799年にイギリスで英訳版が出版されて人気を博し、数多くの上演回数を誇った。この作品の翻訳や翻案も盛んに出版されている。だが、大衆的な人気の高さはあったものの、ワーズワスやコウルリッジ、また『アンチ・ジャコバン・レビュー』などの保守的な雑誌からは強い批判を受けた。この作品がこれだけ大きな人気を獲得した理由、またそれに比例して強い批判を受けた理由について、当時のイギリスにおける文学的潮流や歴史的背景、同時代の社会問題の考察を踏まえ、イギリス国内の問題にとどまらない、ヨーロッパ全体の歴史的状況や、さらには南米を巡る植民地問題とを絡めながら、この劇作品を分析した。 コツェブーのテクストに関しては、元のドイツ語原文を参照しつつ、アン・プランプトリやマシュー・グレゴリー・ルイス、リチャード・ブリンズリー・シェリダンら18世紀末に現われた数々の英訳を吟味、比較検証した。 1800年前後のイギリスにおける定期刊行物や同時代の劇評を調査し、『ペルーのスペイン人』が扱っている、スペインによるペルー征服問題をイギリスがどう捉えているのか、歴史的状況を踏まえた文学的潮流について検討を行った。 これらの問題を、同時代に流行していたゴシック・ロマンスとも絡め、大衆的人気を博していた文学ジャンルとして共通点を見出し、学術的見解を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コツェブーの『ペルーのスペイン人』に関する考察はある程度順調に進められたと考えてはいるが、18世紀末に複数出版されたこの劇の英訳の質的な違いについて、細かな点までを含めてすべて例証するには、さらに多くの時間と作業が必要であると感じている。また、この作品のみならず、その他のコツェブー作品、特に本研究のテーマとも関連する奴隷制問題を扱った劇作品についても検証する必要を見出しており、引き続き研究を進めていきたい。 『ペルーのスペイン人』を詳しく分析する中で、次年度以降のテーマを研究する上での論点の方向性がより明確になったことはよかったと思う。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降はコツェブー作品の研究を踏まえて、ヘレン・マライア・ウィリアムズの長詩『ペルー』を取り上げる。ペルー表象という共通点はあるが、ウィリアムズ自身の生涯、詩作品、政治的主張などと照らし合わせながら、彼女がどのようにスペインによるペルー征服の問題を捉えていたのかを検証する。 また、同時代のイギリスにおける反奴隷制運動や、イギリスにおけるスペインのイメージ、フランス革命など、歴史的、社会的問題の考察を交えながら、より大きな視点でロマン主義時代のイギリス文学におけるペルー表象について研究し、現代にもつながるコロニアリズムやオリエンタリズムの問題系へと接続したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コツェブー作品の英訳版に関し、18世紀の初版本そのものを購入せずともファクシミリ版で手に入るものが見つかり、当初の見積もりよりも安価で購入することができた。次年度以降の研究で必要な文献購入に充てたい。
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