研究課題/領域番号 |
17K13415
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山崎 健太 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助手 (90779076)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ベケット / 物語論 / 演劇性 |
研究実績の概要 |
本研究はアイルランド出身の劇作家サミュエル・ベケットの演劇作品について、特に後期演劇作品における語りと舞台上の視覚イメージとの関係に注目するものであり、戯曲のテクスト分析に重きを置きつつ、それが上演をどのように規定しているのかをあきらかにすることが目指される。「語り」をその劇構造の中心に置くベケットの後期演劇作品のテクスト分析の理論的枠組みとして「物語論」の手法を導入することで、ベケットの後期演劇作品を包括的に論じる枠組みを確立し、演劇への「物語論」的手法の援用可能性および、「物語論」と同じく現実と虚構の関係性を対象とし、その二重性を演劇の特質と捉える「演劇性」研究との相互参照可能性を探ることも本研究の目的となる。 初年度となる本年度は、「物語論」に関する先行研究の整理およびその理論的枠組みの演劇への応用可能性の検討を行なった。「物語論」の理論的枠組みは小説を主な対象としつつ、先行研究においてもすでに演劇への応用についても検討されてきた。だが、そのほとんどは個別の演劇作品にその枠組みを適用することを想定していない、いわば演劇一般の構造を対象としたものであり、演劇研究に物語論の成果を導入するには至っていない。また、演劇一般を対象とするがゆえにその構造は静的なものとならざるを得ず、上演の中で現実と虚構との関係が変化していくような作品への応用は難しい。本年度はこれらの問題点の洗い出しおよび解決策の検討を行なうことと並行して、「物語論」の理論的枠組みを適用して分析を行なう予定の『オハイオ即興曲』『あしおと』の基本的な構造の検討を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では『オハイオ即興劇』『あしおと』それぞれの作品について、「物語論」の理論的枠組みを用いたテクスト分析を終えている予定だったが、現時点で「物語論」の先行研究の整理および問題点の検討の成果を『オハイオ即興劇』『あしおと』のテクスト分析に応用することができていない。これは、「物語論」の理論的枠組みを演劇へと応用することが当初の見込みよりも困難だったことによる。
|
今後の研究の推進方策 |
現状の課題である「物語論」の理論的枠組みを演劇、なかでもサミュエル・ベケットの後期演劇へと応用することの困難を解決するため、私小説における作者と語り手の関係に関する先行研究を参照項とする。語る主体と語られる物語の登場人物との同一性・類似性が重要なポイントであるベケットの後期演劇と作者と物語の語り手とを同一視させる私小説というジャンルの類似性は、「物語論」の理論的枠組みをベケットの後期演劇の分析に導入するための重要な参照項となるだろう。 研究計画については作品のテクスト分析を優先しつつ、基本的には当初の計画に沿って進めていく予定である。
|