研究課題/領域番号 |
17K13416
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
工藤 義信 金沢学院大学, 文学部, 講師 (70757674)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 15世紀英語例話集 / 写字生によるテクスト編集 / 例話集と教会権威 / アランデル司教令の影響 / 15世紀イングランドの宗教文化 / 15世紀イングランドの政治文化 / 既知作品内の新詩行の発見 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、Peter Idley's Instructions to his Sonの現存写本のうち、作品の第二部が収録されている一写本の研究調査を実施した。当該写本のIdley第二部の独自の編集に見られる特徴を指摘し、そこから考えられる写字生のテクスト編集の意図について考察し、その結果を7月の国際学会Early Book Societyで発表した。同学会における研究発表は、現在数少ないPeter Idley研究者のうちの一人であるMatthew Giancarlo氏とパネル・セッションを組んで行うことで、最新のPeter Idley写本研究について関連領域の研究者に関心を持って頂く貴重な機会とすることができた。その後、別の写本と今回の調査対象の写本とを比較したところ、Idleyによる未刊行の詩行を新たに発見するとともに、今回の対象写本にはこれまで指摘されていない更なる省略箇所があることが分かった。新たに判明した省略箇所も踏まえて再度一つ一つの編集箇所の意味について吟味することで、写字生の編集の意図として考えられることと15世紀当時の宗教的・政治的文化との関連性が浮かび上がり、より深い考察が可能になった。とくに、写字生の営みの中に、例話集のもつ教化性および教会権威の維持というファクターを見出すに至った。この一連の研究により、Idley現存写本のうちのひとつのヴァージョンの意義について、主に15世紀の宗教的・政治的事情との関わりを踏まえた編集事情という観点から、理解を深めることができたといえる。以上の成果を研究論文として公表するための準備を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、Idley現存写本のうちのひとつのテクストの特徴について分析考察をすすめ、国際学会で研究発表を行うことができ、関連領域の研究者から貴重な意見を得ることができた。セッションを組んでそれぞれのPeter Idley写本研究についてともに発表したMatthew Giancarlo氏とは、互いのさらなる研究の発展において、有意義な協力関係を続けている。また、その後新たに分かった事実についての分析も踏まえて、同写本の編集事情に関する研究論文の準備を進めることができた。予定していた研究調査の遂行、その成果のまとめとともに、次年度以降の課題も明確化したため、本年度は順調な進展であったと結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に研究調査対象とした一写本の独自のテクスト編集に関して意義のある分析結果が出てきたため、同写本についてはこれを足掛かりとしながら、15世紀の写字生・写本編者の取り組みの実際を示す一例として、より詳細かつ総合的な分析を進めていく意義が特にあると判断できる。そこで平成30年度はまず、写字生の熟達度や、言語的特徴、収録されている別のテクストとの関連性など、同写本のテクスト周辺の要素について詳細な分析を進め、同写本の制作事情と意図されていた使用に関する考察を深化させていくことに優先的に取り組む。また、現存するひとつひとつの写本に見られる、写字生によるIdleyのテクストの編集の意義について今後さらに分析を深めていくためにも、まずIdley第二部自体が中世後期の英語例話集としてどのような特質を有しているかについて、改めて考察を進める必要が生じてきた。そのため、Idley第二部とその材源との比較を通じた前者の特質の考察も優先的に進めていく。その上で、次の写本の研究に移る。新たな調査対象の写本に収録されたテクストと他の写本のテクストとの親子関係について再検討することで、Idley's Instructions to his Sonの成立と伝播の過程について考察することを中心に進めていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、本年度購入した研究書が、全体として予想よりも安価に購入できたこと(購入額は購入時のドル―円、もしくはポンド―円の為替レートに影響される)と、海外における研究調査・研究発表の日程を短期間にまとめ、旅費支出を抑えられたことが挙げられる。次年度には2写本のより詳細な研究調査を行うため、本年度よりも海外研究調査日程が長くなる予定であり、当該助成金を主として旅費支出へ充当する方針である。
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