本研究は、19世紀アメリカ及びマルケサス諸島の食文化や食人風習について調査を行い、Herman Melvilleの初期作品に見られる「食」の表象が、どのように後期作品にみられる「食」のモチーフと連動しているのかについて考察するものである。具体的には、Mevilleの第1作目にあたる『タイピー』で描かれるカニバリズムとタトゥー文化が、中期作品に「食べる行為」と「書く行為」との接続性へと反映されていることについて分析し、その接続生を踏まえ、Melville文学における皮膚表象の重要性を明らかにした。加えて、2017年度にNew Bedford Whaling Museumで捕鯨航海日誌の調査、また2019年度には『タイピー』の舞台となるNuku Hiva島でカニバリズムとタトゥー文化、またMelvilleの滞在した場所について実地調査を実施した。 主な研究実績として、2018年に『信用詐欺師』の「食」と「書」の関係を分析した論文、“The Impostor and the Imposer: The Fictionality of The Confidence-Man”が『英米文学』(関西学院大学英米文学会)に、『白鯨』のカニバリズム表象について考察した論文、“The Devourer and the Devoured: Self-Cannibalism in Moby-Dick”がSKY-HAWK : The Journal of the Melville Society of Japan(日本メルヴィル学会)にそれぞれ掲載された。加えて、2019年に日本英文学会関西支部シンポジウム「冒険の残滓―『ロビンソン・クルーソー』から300年」において、『白鯨』におけるタトゥーおよび皮膚表象を分析した「『下書きの下書き』―Melville文学のスティグマの表象」を発表した。
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