研究実績の概要 |
本年度も、古代ローマの文芸論において重要な位置づけを占めるものとして、オウィディウス『変身物語』の研究を進めた。『変身物語』の第1巻と最終巻の第15巻は教訓叙事詩の要素を有しているという点に着目し、それぞれの巻においても時代説話について言及されているところから、その両巻の内容を踏まえることで、第1巻の時代説話に続くリュカオンの物語がどのような連続性に基づいて描かれているのかを明らかにした。これについては、「オウィディウス『変身物語』の時代説話とリュカオンの食卓」として論文にまとめ、『神話学研究』第2号(2019年12月)に発表した。 また『変身物語』第15巻のピュタゴラスの教説の位置付けについて、ピュタゴラスの教説とその後に続く第15巻の箇所全体から、『変身物語』中に複数見られる「無に帰す長い忠告」の構造があることを指摘し、これまで見過ごされてきたピュタゴラスの教説の重要性について再評価した。これについては、「無に帰す長い忠告 ――オウィディウス『変身物語』第15巻におけるピュタゴラスの教説の位置付け 」として論文にまとめ、『フィロカリア』第37号(2020年3月)に発表した。 また、オウィディウスの作品研究に際し新しい研究にあたるB. W. Boyd (ed.), Ovid's Homer: Authority, Repetition, Reception, Oxford 2017について書評を執筆し、研究動向の紹介に努めた。 これについては『西洋古典学研究』第68号(2020年3月)に発表した。 以上のように本年度の研究はオウィディウス『変身物語』の研究を中心としたものになったが、これを通じて古代ローマの文芸論の形成についても考究を深めた。
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