研究課題
本研究の目的は、未公表作を多く含むヴァレリーの初期詩篇を発掘精査することにより、旧来の詩人像を修正するとともに、ヴァレリー初期の詩作をフランス近代詩の潮流のなかに正確に位置づけることである。最終年度には、本研究が四年間を通して行ってきた主な作業、ヴァレリーの「初期詩篇草稿」全2巻(フランス国立図書館所蔵)の活字化および翻訳の作業を完了した。「初期詩篇草稿」第1巻(172枚)には計156篇の詩が見出され、そのうち未公表詩篇が119篇にのぼる一方、第2巻(200枚)には後年ヴァレリーが『旧詩帖』に収めることになる詩篇の草稿のほか、1892年ジッドに送られた詩10篇の素描、1890-1893年に友人たちに送られた詩8篇の清書稿、マラルメの死に接して書かれた詩の素描(通称「マラルメの墓」)、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの詩の翻訳などが見出された。第1巻については、草稿の活字化と翻訳に加え、初期詩篇の体系的分類を含む概説と、各詩篇の特記事項に関する注を付し、その成果を日本ヴァレリー研究センター機関誌『ヴァレリー研究』に発表した。本成果により、これまで十分に知られていなかったヴァレリーの初期詩篇の全体像が把握され、旧来の詩人像からは窺い知れないヴァレリーの詩の多面性が浮かび上がった。すなわち、従来ヴァレリーはフランス近代詩の変革運動に逆行し、古典的詩法に固執した詩人と一般にみなされてきたが、若年のヴァレリーはむしろ19世紀末フランス詩の革新的な動向と軌を一にするような、定型を崩すさまざまな試みを模索しており、同時代の詩の潮流と深く関わっていたことが明らかになった。また、本研究から派生した研究として、ヴァレリーの詩『若きパルク』の特異な受容の一例、現代フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーによるパロディー詩『若きカルプ』を考察した。
掲載論考:Teiji Toriyama, "Paul Valery, Vers anciens I. 1886-1890 (Manuscrits de la BNF, Naf 19001, 172 ff.) : transcription et traduction japonaise" (p. 5-191) 「ヴァレリーの手稿『初期詩篇 I. 1886-1890』の翻訳」(p. 192-338)
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Valery Kenkyu : Bulletin Japonais d’Etudes Valeryennes
巻: 9 ページ: 5-191
ヴァレリー研究
巻: 9 ページ: 192-338
ステラ
巻: 39 ページ: 221-237
10.15017/4355462
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