本年度は、前年度に調査と分析を進めていた19世紀末のベルギー・オランダ語文壇における象徴主義受容の問題点についての考察を進めた。これまでのオランダ語文学史においては、フランス語圏に十年ほど遅れたオランダ語圏の文学革新運動では自然主義が中心となり、象徴主義は大きなインパクトを残さなかったとされてきた。確かにオランダでは明らかに自然主義の作家達がその中心を担っていたが、ベルギーのオランダ語文学の近代化を担った文芸誌『Van nu en straks』誌の主催者であったヴェルメイレンは、本誌の創刊に当たっては同じ言語圏のオランダよりも自国のフランス語文芸誌を範としたと記しており、創刊年に発表されたヴェルメイレンの文学論や文芸作品を分析した結果、同時代に隆盛を見せていたフランス語圏の象徴主義文学から少なからぬ影響を受けていたことが明らかとなった。この成果については夏にベルギーで開催された国際オランダ学会で発表し、従来のオランダ語文学史の記述に対する問題提起を行ったが、オランダ語文学を専門とするネイティヴの研究者達からは肯定的な反応を得ることができた。本研究については今後学術論文の形で国際学会に投稿を行う。 また、九月にはウクライナで開催された国際学会に参加し、ベルギー・フランス語圏の象徴主義文学にみられるアイデンティティーの複雑な現れについて翻訳という観点から論じた研究発表を行い、本発表に基づく英語論文を投稿した。その他、「風景」という視点からベルギーの象徴主義文学と絵画を比較考察した論稿の収録された共著本が十月に出版された。
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