研究課題
最終年度は約一年間欧州に滞在する予定であったが、2019年度末から全世界的に流行している新型コロナ感染症の影響により渡航が無期延期となった。本来2020年度に予定していた研究計画は渡航先の施設を利用することを前提としたものであったことに加え、エントリーが決定していた国際学会はすべて延期ないし中止となったために研究計画の大幅な見直しを迫られた。これを受けて、本年度に現地調査を前提に計画していた課題を大幅に修正し、理論的なアプローチでの研究へと変更した。具体的には、フランスを中心に展開した幻想文学の定義を巡るこれまでの議論を整理しつつ、その定義の前提、範囲、および問題点を比較検討した。幻想を巡る先行研究においては、日常に侵入する「恐怖」の感情が前提とされてきたが、それとは微妙に異なる「不気味さ」という情動に着目し、フロイトの「不気味なもの」の理論を再検討した。これを理論的基盤としつつ、ロボット工学の分野で知られる「不気味の谷」理論を組み合わせることで、ヴィルヘルム・ハマスホイの一見写実的な室内画の喚起する違和感の解明を試みた考察をまずオンラインで開催されたイギリスの国際学会において発表し、その成果を英語論文として投稿した。年度後半にはベルギーにおける幻想文学の系譜を、フランスとは異なる風土が生んだ地詩学的という観点から考察した研究発表を、ポーランドの大学が主催したオンライン学会において行い、これについても目下外国語論文として投稿するための執筆作業を進めている。その他、ベルギーのワロニー地方で展開した象徴主義文学を地詩学的観点から論じた投稿論文が国際誌に掲載された。結果的に当初本年度予定していた計画からは大きな変更を余儀なくされたが、幻想文学の理論的側面を再検討することで今後研究をさらに展開する上で有意義なアプローチの発見へと繋がり、その土台作りをすることができたと言える。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
XXI. Congress of the ICLA. Proceedings. Vol 2. Literary Translation, Reception, and Transfer
巻: 2 ページ: 441-453
10.1515/9783110641998-035