研究課題/領域番号 |
17K13428
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
時田 郁子 成城大学, 文芸学部, 専任講師 (60757657)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ドイツ革命 / 神秘主義 / 亡命文学 |
研究実績の概要 |
当初の計画とは順番を変え、昨年度まで取り組んできた長編小説『一九一八年十一月』の研究を継続し、デーブリーンの後期作品を亡命文学として捉えるべく、他の亡命文学者たちの作品と比較して、亡命文学の特徴を探った。 一点目に関して、第一次世界大戦後のヨーロッパの政治的・経済的・文化的状況を踏まえて、デーブリーンが「革命」をどのように捉えていたのか考察した。国際情勢におけるドイツの立場と、ドイツ国内における政府と革命派の争いを歴史学の文献に照らして、デーブリーンの批判的眼差しを明らかにした。戦場から帰還した一知識人の心情の抜本的変化、過去の甦りがある詩人の人生に新しい局面をもたらすこと、共産主義者ローザ・ルクセンブルクの神秘体験等は、デーブリーンが個人における「革命」として造形したものであり、彼の「革命」観が多岐に亘ると判明した。 二点目に関して、1920年代にベルリンで診療所を開いていたデーブリーンが日常的に目にしていたであろう、ロシアからの亡命者の状況を考察した。ウラジーミル・ナボコフ(1899-1977)の作品を手掛かりにして、当時の亡命者コミュニティの様子や、故郷との断絶によって増す追想のアクチュアリティが浮き彫りになった。さらに亡命者の心的状況を探るため、デーブリーンよりも時代は下るが、ドイツからイギリスへ移住したW.G.ゼーバルト(1944-2001)の作品を分析して、封印された記憶が現在に及ぼす影響を検討した。デーブリーンは1933年以降に亡命するため、他の亡命文学との比較は、次年度に『バビロン放浪』や『容赦なし』を取り上げるための前提となった。 夏休み期間を利用して、ドイツ・マールバッハの文学文書館にて『一九一八年十一月』関係の手稿を調査し、デーブリーンが自分の文学作品をどう意味づけていたのか、判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で取り上げる作品のうち最も分量が多く、後期デーブリーン文学の要となる長編小説『一九一八年十一月』の研究が進んだためである。デーブリーンはドイツからフランスを経てアメリカへ移動するため、第一次世界大戦後のヨーロッパとアメリカにおける政治的・経済的・文化的状況を踏まえることは本研究の基盤になり、今後も継続していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
移動を次年度の研究主題にして、『アマゾナス』、『バビロン放浪』、『容赦なし』を考察対象とする。マールバッハの文学文書館にて二次文献の調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
書店に注文したドイツ語の書籍が年度内に発送されなかったため、次年度使用額が生じることになった。次年度にドイツに行く予定なので、日本で入手困難な書籍を現地で直接購入する。
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