本研究課題の最大の目的である『金瓶梅詞話』新訳については、一年あまりを費やして中巻(全百回のうち第三十四回~第六十六回を収録)の訳稿の見直しを終え、入稿することができた。当初の計画では中巻を最終年度内に刊行することを目指していたところ、多少おくれて本報告書作成時点ではまだ校正段階ながら、2021年内にの刊行が見込まれる。訳語・訳文を丁寧に検討し、難解な語の説明や引用される文学作品の出典、明清の批評などを注釈に盛り込むなどした。また近年の研究成果を取り込み、できるかぎり精度のたかい翻訳となるよう努めた。上巻につづき、一般読者にとっても読みやすく、なおかつ学術的にも価値のある翻訳になったものと信じている。
旧来の翻訳は『金瓶梅』研究が飛躍的に発展する前の段階になされたこともあり、現在の研究水準から見ると誤りが多く、注釈も不十分で、決して読みやすいものではなかった。本文が難解で専門の研究者を除けば容易に読みこなせる作品ではないため、近年の研究成果に基づいた新訳がもとめられる状況が長く続いていたが、新訳の刊行によって作品の真面目を一般読者にはじめて明らかにすることができた。
こうした『金瓶梅』新訳に向けた作業のほか、最終年度にあっては、作品研究や翻訳に関する論文や書評、新訳をめぐるインタビュー記録などを公刊することができた(印刷中のものを含む)。いずれも、翻訳作業を通じて得た知見を活用した成果である。
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