研究期間の延長により最終年度となった2020年度は、これまで蓄積してきた調査・研究に基づき、手元のデータ・原稿の補足修正作業を加速し、成果を有機的に関連させることに注力した。各地域・各時代における書札礼の普及・変容の状況について比較し、共通部分と相違部分に関して検討を進めた。前年度より分析を進めていた「大状」の書式について、情報の口頭伝達と書面伝達というふたつの異なる場面において用いられることを確認し、二種類の大状が唐末から宋にかけて併用されていたこと、公的な空間から私的な交流の場へと用途が拡大した過程などを明らかにし、論文にまとめて公表した。また、漢文手紙文書に関わる用語について、全体像を見据えつつ、定義付けを行い、書評論文の附論にまとめた。 そのほか関連する研究活動として、2020年度は公益財団法人日台交流協会共同研究助成事業(人文・社会科学分野)「仏教における学問的理論と実践的知識――東アジアの仏教に見る実用書の伝播と収蔵」(研究代表者:楊明璋)に分担者として参画した。共同研究では9世紀から14世紀の東アジア地域の仏教界における実用書の役割について、代表者・分担者がそれぞれに個別の事象・文献を通して、特に教理の理解や各種儀式の実践といった実用的効果、ひいては宗教における意義を明らかにした上で、全体として、中国・日本・朝鮮半島における仏教実用書の受容と展開について再検討した。これより得られた知見は、本研究課題に対しても新たな視点や方向性を与えるものとなった。釈応之『五杉練若新学備用』巻中に見られる手紙の模範文の分析作業を担当し、その編纂態度について考察し、後世朝鮮半島において新たに版を起こし印刷されるまでに受容された要因を探ることを試みた。これは共同研究の成果であると同時に、本課題の重要な一部と見なすことができる。
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