研究課題/領域番号 |
17K13438
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新国 佳祐 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (60770500)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 言語変化 / 主格属格交替 / 容認性判断 / 世代間差 |
研究実績の概要 |
本年度は,主格属格交替(ガ/ノ交替)と呼ばれる格交替現象の容認性が現代を生きる日本語母語話者の世代によって異なることを明らかにした研究代表者らの先行調査結果(i)を受け,言語(文法)の通時的変化を反映すると考えられる当該容認性世代間差がさらに様々な統語的環境における主格属格交替文を刺激文として用いた場合でも見られるかどうかを確認すべく,複数のWeb質問調査を実施した。第一の調査では,a) 主格/属格主語の述部が主語の状態を表すタイプ(状態文,例:体が/の細い人は...),b) 主格/属格主語の述部が主語の属性を叙述するタイプ(属性叙述文,例:夕焼けが/の赤いことは...)の主格属格交替文を刺激文として25-34歳,45-54歳,65-74歳の3世代の東京方言話者に対して文の容認性判断課題を課した。その結果,属格主語状態文では統計的に有意な容認性世代間差が見られなかったのに対して,属格主語属性叙述文の容認性には25-34歳<45-54歳<65-74歳という有意な世代間差が検出された。主格主語文では状態文・属性叙述文いずれにおいても容認性世代間差は確認されなかった。第二の調査では,a) 主格/属格主語の述部非対格動詞が能動態である条件(例:カーテンが閉まっている部屋...),b) 主格/属格主語の述部動詞が受動態である条件(例:カーテンが閉められている部屋...)を設定し,同様の容認性質問調査を行った。その結果,a),b)いずれにおいても属格主語文のみで調査1と同様の世代間差が見られ,かつ属格主語文の容認性がa) > b)であるという結果を得た。以上の結果は,(i)の一般性を担保する意義を持つと同時に,すべて「属格主語文に与えられる統語構造のサイズが話者の世代を追うごとに縮小しつつある」という仮説よって説明可能であり,言語変化の様相の理論的な記述可能性を示す重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度のノルマであった二つの実験調査は滞りなく実施され,結果もほぼ期待された通りのものが得られた点から,当初の計画は順調に進展していると判断する。加えて本年度は,本研究の開始に先立って実施していた調査の結果を査読付き学術論文として発表することができ,また,本年度に行った調査結果の一部についても国内学会,国内ワークショップ,国際学会にて広く発表し,さらに国際学術雑誌への掲載が確定するなど,成果の公表の面も順調である(国内学会での発表については当学会の優秀発表賞を受賞している)。本年度の末には当初の予定を前倒しし,次年度に行う計画であった実験調査を予備的な形で実施することができた。以上から,本研究課題の進捗状況は当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の計画は順調に進行したため,次年度以降も基本的には当初計画に従い研究課題を遂行する。具体的には,i) 主格属格交替とは異なる種類の格交替への容認性の世代間差を調べる調査研究,ii) 主格属格交替文を読む際の眼球運動パターンまたは読み時間の世代間差を調べる実験研究を実施予定である。加えて,可能な範囲で iii) 平成29年度に実施された研究の補足・発展調査を行う。 研究を遂行する上での課題となるのは,実験研究 ii) を実施する際の実験参加者の確保である。この実験では,20歳代,40歳代,60歳代の3世代の参加者をそれぞれ40名ないしそれ以上確保できることが望ましい。20歳代の参加者は研究代表者が管理する実験参加者プールから,60歳代の参加者は研究協力者の運営する高齢者向けPC講座の受講者から十分数リクルート可能であることが見込まれるが,40歳代の参加者の確保はやや見通しが不透明である。対応策としては,研究代表者の所属機関に在籍している社会人学生が属するコミュニティーに,責任者の許可を得た上で該当する年齢層の参加者の募集を呼びかけるなどを検討中である。
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