研究課題/領域番号 |
17K13440
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山村 崇斗 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30706940)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 省略構文 / 形容詞残置名詞省略 / 対照焦点 / 焦点認可分析 |
研究実績の概要 |
当初は、「主要部名詞を欠き、一見すると形容詞が主要部である名詞句」であり、現代英語では複数の人間を表す表現として用いられるHUMAN構文の史的発達(空名詞proから名詞化接辞への発達)を検証するコーパス調査を計画し、特に平成30年度は、古英語から近代英語にかけての調査を予定していたが、平成29年度の研究から派生して明らかになった"the gap between the richer families and the very poor"のような、顕在的でない名詞が「人」以外を指す現象が現代英語においてもある程度可能である事実を中心に調査を進めた。 前述の例のように、形容詞に後続する名詞が省略され、その解釈が先行する名詞に依存する事例は、古英語や中英語では観察されるが、現代英語に至るまでに消失したと考えられてきたため、現代英語で依然として観察される事実に対して理論的な説明を要する。現代英語における当該構文は、多くの場合、2つの形容詞が意味的に対立を示す(例えばricherとvery poor)というGuenther (2010)の主張に着目し、当該構文が頻繁に生じていたと考えられている古英語においても同様に、形容詞間で意味的な対立がみられるかを調査した。実際に、そのような事例は観察され、当該構文に対する、従来の「消失」を前提としたシナリオ及び統語分析を再考し、新たに「維持・持続」を主張する分析方法を提示した。 本調査の結果や統語分析は、国内外合わせて3つの学会のポスターセッションで発表され、2つの学術誌(Data Science in Collaboration 2, 東海英語研究第1巻)に論考がまとめられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究方針を一部変更したため、HUMAN構文そのものの調査については平成29年度からそれほど進展していない。ただし、顕在的な主要部名詞が現れず形容詞自体が主要部のようにみえる表現には、非顕在である名詞に当たるものの解釈が「人」であるHUMAN構文だけではなく、平成30年度に主に調査・研究を行った先行名詞に依存する省略構文が含まれるため、後者について調査を進めたことで、前者の分布範囲を間接的ではあるが限定しつつあると言える。 また、省略構文の認可条件や統語分析を進めることで、文脈上、あるいは統語上、それには当たらない現象がみられた時に、即座に省略構文とは別の構文であると判断できるようになることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
「形容詞1+名詞+等位接続詞+形容詞2」の語配列を持ち、形容詞2に後続する名詞が省略されていると解釈できる構文(AN&A構文)を通時的に観察する。形容詞1と形容詞2との間に、現代英語のAN&A構文と同様の意味的対立が古英語においても観察されているが、実際には非常に似た意味を持つ形容詞が用いられている事例も観察されている(例えば、se aethela papa & se halga 'lit. that noble pope')。このような場合、2つの形容詞は同一の名詞、すなわち同一の個体を修飾しているようにみえるため、HUMAN構文や対照焦点に基づく省略構文とは異なる分析が必要となる。 このように「形容詞が一見すると主要部名詞のようにみえる」表現が細分化されてきており、それぞれに適した分析の提案と、それぞれの発達史を解明を試みることが、平成31年度の研究方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた図書や物品を一部購入しなかったこと、また学内業務や本人の体調不良により、予定していた学会や研究会への出張が一部取りやめになったことがあり、予算と実支出額に差額が生じた。 2019年度では、海外で行われる学会で発表予定であるため、2018年度からの繰越金は、これに充てる。また、最終年度に当たるため、学会誌への投稿を主に行う予定であるので、英語論文の校正校閲への支出が多く見込まれる。
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