本研究課題は、アスペクトとの関連性を視野に入れつつ、ドイツ語移動動詞と経路表現との共起関係をコーパス事例に基づき、実証的に調査・分析する試みである。移動を表す基礎動詞のみならず、特定の経路を含意する不変化詞動詞をも対象とし、具体的な経路表現との共起頻度・共起可能な経路表現の組み合わせを問題とすることで、移動事象をアスペクト的に限定し得る経路表現の言語化に関わる意味的・統語的制限を明らかにすることを目指している。 研究実施期間を通して、(1) durchを伴う不変化詞動詞における意味解釈の分化、(2) 起点ないし着点の表出とその非対称性、(3) 広義の態交替における移動動詞の振る舞いと経路表現との関連、という観点から分析を進めた。最終年度である2019年度は、このうち(2)に集中的に取り組み、研究の成果を総括した。 起点ないし着点の表出とその非対称性について、前年度に行ったコーパス事例調査の見直しと再検討を行い、さらにhinaus「(あちらの)外へ」やhinein「(あちらの)中へ」などを伴ういわゆる「二重不変化詞動詞」を分析の射程に入れた。調査結果を受けて、問題となる起点ないし着点の場所が新情報として提示されるか、あるいは旧情報として認識されるかという観点から考察を行い、起点ないし着点の表出・非表出について情報構造との関わりを軸にモデル化することを試みた。研究成果は口頭研究発表として公にしたほか、論文を執筆し、学術誌に投稿した。
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