研究期間の最終年度である本年度においては、以下の研究成果が得られた。 本研究の目的は、項の具現とりわけ動作主に関する項の具現について、語彙の意味からそのしくみを明らかにすることであった。最終年度では、編著1本、論文(共著)1本、口頭発表3本の研究成果がある。編著では、日本語のナル述語に関して、元来、動作主と認定できるものが降格され、必須の要素でなくなる現象について、語彙意味論の観点から考察を行なった。その結果、ナル述語には、これまであまり注目されてこなかった、主語の性質を述べるタイプがあることを明らかにした。より具体的には、このタイプのナル述語は、「名詞(句)+ニ格+ナル」の形で表れて、主語の内在的性質から生じる(不)利益を誰かが被るまたは得ることを叙述する働きがあり、そして、これらの(不)利益を担う名詞句は「にとって」や「の」でマークされる項として現れることを明らかにした。また、このタイプのナル述語の意味は、名詞の意味とナルの意味の特質構造を合成することで得られることを明らかにした。共著の論文では、中国語の結果複合動詞において、目的語に動作主の解釈が可能な現象を取り上げて、その意味解釈の割当が統語構造をもとに生成できることを示した。口頭発表においても、元来主語に具現されるはずの動作主が、主語以外に具現される現象を複数取り上げ、名詞の意味を考えることが解決の糸口になることを示した。 研究期間全体を通じて実施した研究成果は、単著の本1冊、共著の本2冊、編著の本1冊、単著論文2本、共著論文2本、口頭発表4本である。研究全体を通して、項の具現に関しては、動詞の意味ならびに名詞の意味について、語彙概念構造や生成語彙論のクオリア構造を用いて考察することが有用であることを示した。
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