研究課題/領域番号 |
17K13451
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小松原 哲太 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (70779636)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 換喩 / メトニミー / 近接性 / 認知言語学 / 認知意味論 / 語用論 / 修辞学 |
研究実績の概要 |
換喩(メトニミー)は、効果的なコミュニケーションに大きな役割をはたすレトリックである。換喩にはさまざまなパターンがあるが、その中でも、“人を”描写する換喩、および“人に”言及する換喩が高い頻度で使用されており、人の概念化に関連する換喩が際だった生産性をもつことが分かった。具体的には、日本語の文学テクストの用例をもとにした換喩の記述と分類を行い、人の<身体部位><髪型><服飾品><所有物><居住地><行為><心情>などに言及することで人を描写するパターン、あるいは人に言及することで<身体部位><生産物><心情>を描写するパターンが、生産的に用いられていることを明らかにした。
研究の基盤になるデータ収集のために、『日本語レトリックコーパス構築プロジェクト』を立ち上げた。京都大学の大学院生6名の研究協力者を得て、手作業で文学テクストを読解し用例を抽出する作業を行い、1年間を通して、換喩の用例約460例を含む合計2,300例以上のレトリックのデータを収集した。プロジェクトを通じて11回のミーティングを開き、クロスチェックを行うことで、記述の安定化を目指した。できるかぎり一貫性のある基準で、多種多様なレトリックの用例を分析することのできるフレームワークを探求した。
2017年5月26日に立命館大学認知科学研究センターで開催された研究会での発表にもとづき、カテゴリー化の観点から、換喩の効果に関与するコンテクストの要因を分析し、換喩の効果を体系的に分類する論文を執筆した。描写のターゲットになる存在の情報構造、認知的際立ち、社会的配慮の条件によって、換喩の機能が異なることを明らかにした。研究代表者は2016年に京都大学学術出版会より『レトリックと意味の創造性:言葉の逸脱と認知言語学』を出版したが、本書で提案した理論的枠組みを実際に適用した研究として、この論文を位置づけることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究計画では、まず換喩の具体例の収集に時間と労力をかけることで、堅実な理論を構築するためのボトムアップな記述的一般化を行い、特に、意味論的な分析を重視して、換喩のデータ分類の意味的基準を安定させる計画であった。
当初の計画では、1,000例程度の用例を収集する予定だったが、計画の半分程度の用例しか収集できなかった。データが多い方が、研究の実証性が高まるのは確かであるが、手作業でテクストから無作為に抽出するというアプローチの性質上、用例数が目標通りに達成されないということは予想されていた。その代わり、研究協力者との定期的なセッションを行った成果として、記述のフレームワークの構築に関しては、予想以上の進捗があった。作例に頼らない、実例だけを使った、ボトムアップな換喩の記述と分類を行う理論的枠組みの足がかりを得られたことは、大きな研究成果である。以上の点を総合すると、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1,000例を目標として、換喩のデータを引き続き収集する。これまでのデータ分析の成果を生かして、一貫性のある記述を行う。また、信頼できるレトリックの研究者に協力を要請し、収集したデータの適切性と、記述の正確性を担保する作業を行う。意味論的な記述は、個人によって多かれ少なかれ差がある。このことを大前提として、複数人で記述内容をクロスチェックし、記述の安定性を高めていく。
データの意味論的な分析に加えて、文法論的な考察を行っていく。特に、換喩に用いられる語彙選択に影響することが知られている、アスペクト、影響性、意図性のコード化を行い、換喩の成立に関わる文法的要因を考察する。
日本語の換喩研究の成果を、海外の学会において英語で発表し、国際的な研究水準でアプローチの妥当性を検討する。30年度は、香港理工大学で開催される The Association for Researching and Applying Metaphor の学会で、動詞の換喩に関与する文法的要因について発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金の調整によって、次年度使用額が生じた。データ収集の謝金は、収集したデータ数に応じて異なるが、年度末までデータ収集作業を継続していたため、最終的なデータ数が確定できなかった。その結果、年度内に謝金を一括で支払うには予算が不足した。このため残額を繰り越して、次年度の予算と合わせることで、次年度初めに当該の謝金を支払う予定である。
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