研究課題/領域番号 |
17K13454
|
研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
前田 真砂美 立命館アジア太平洋大学, 言語教育センター, 准教授 (00617342)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 現代中国語 / 「差」の表現 / 程度補語の定義 / 程度性 |
研究実績の概要 |
現代中国語の普通話(標準語)において、二者間の差が比較的大きいことを示す手段として〈形容詞+“很多”〉(以下、〈A很多〉)という形式の使用例が増えていることを取り上げ、この形式の現在における使用状況を記述するとともに、方言から流入した〈A很多〉が普通話において拡散してきた背景、および、〈A很多〉の使用動機について考察した。考察の結果、以下の三点を明らかにすることができた。 ①〈A很多〉における“很多”は、統語的、語用論的にみて程度補語ではなく数量補語であるとみるのが妥当であること。 ②普通話において、〈A很多〉以外に二者間の差そのものに言及する形式が少ないこと。 ③普通話において差の大きさに言及する際に用いられる既存の表現形式として“A不少”“A許多”が挙げられるが、これらにはいずれも独自の特徴があり、単に差の大きさのみを自由に表現するには不向きであって、このことが〈A很多〉の普通話における使用増加の要因のひとつとなっていること。 結果として、〈A很多〉は本研究が取り扱う程度補語ではなかったわけであるが、考察の過程において、程度補語と数量補語の語用論的機能の違いを明確に区分することができたため、程度補語によって表現される程度性を定義するために役立つ知見を得られたといえる。 上記の成果は単著「差を表す〈A很多〉」にまとめ、「立命館法学別冊『ことばとそのひろがり(6)』島津幸子教授追悼論集」に寄稿する形で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属機関を変更したため。 当初予定していた、中国人留学生を対象とした聞き取り調査や学内アルバイトを雇用して行うデータ整理や資料のデータベース化などの作業は、本務校変更の前後で質・量ともに均質なメンバーに継続的に作業を依頼することが困難となることが予想されたため、29年度の実施を見送った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は以下の三点に関して研究を進める。 ①程度補語の分析:前年度に引き続き、補語の形式で程度性を表現する程度補語の用例を収集、整理して用例分析を行い、各補語の意味特徴の定義づけを試みる。また、程度補語と統語的構造を同じくする結果補語、様態補語に関する研究成果を整理し、その構文的、意味的特徴を把握したうえで、それが程度補語の分析に援用可能かどうか検討する。 ②程度副詞と程度補語との比較:これまでに行なった程度副詞に対する考察の結果を踏まえ、程度副詞と程度補語という二つの形式を比較し、程度副詞によって表現される程度性と、程度補語によって表現される程度性との共通性と特殊性を定義する。 ③程度性と比較との関係:程度の高低を述べることは比較という概念と不可分であるため、言語学における研究成果の整理と検討を行い、比較することと程度性を述べることの関連と、言語上の現れ方を明らかにし、理論的枠組みの構築をはかる。 ①②③に必要な資料収集の方法として、現在の本務校は本研究課題に関連する資料の所蔵が少なく、中国国内の研究成果を入手する手段も少ないため、国会図書館や東京大学文学部図書室および中国での資料収集を前年度以上に積極的に行わなければならない。資料の整理には学内アルバイトを雇用し、作業の効率化を図る。研究成果は、所属する学会、研究会での発表および意見交換を経たのち、単著論文の形にまとめて『中国語学』(日本中国語学会)に投稿する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の学生にデータ整理を依頼したが、就職活動などで予想より多忙となったため、当初の予定ほど時間を確保できず、作業が進まなかった。 次年度に持ち越した使用額については、学生アルバイトによる資料整理およびデータ入力のための謝金に充てることとする。
|