2019年度は、前年度に収集、分析したコーパスの用例をもとに、①形容詞が連用修飾語として動詞に前置される形式(=〈A+V〉)は通常、明示的比較構文とは共起しないが、形容詞“多”“早”の場合は具体的な数値を示す数量句を伴えば共起可能であること、②それは“多V”“早V”が潜在的に比較義をもつためであること、③しかし〈A+V〉形式が動作動詞相当であるために比較構文の構文的意味である「程度や差の表示」と衝突すること、④具体的な数量はその衝突を解消するものであること、を明らかにした。上記の研究をまとめた単著論文「“比”構文における〈A+V〉と数量句」が『現代中国語研究』第21期(朝日出版社)に掲載された。 本研究は、程度副詞や程度補語による程度性発現について、その意味論的、語用論的特徴を明らかにし、現代中国語において程度の高低を表出するメカニズムを明らかにすることを目的とするものである。研究期間には、程度補語による程度性発現が程度副詞によるものとは異なる動機付けに基づくものであることを示し、また、程度補語と数量補語の語用論的機能を明確に区分することで、程度補語によって表現される程度性の定義に役立つ知見を得られた。 研究の過程において、程度性と比較が不可分であることや、数量表現がもつ役割を考え直す必要が生じたが、これは現代中国語において「数量を示す」ことがどのような意味をもつのかという新たな問題意識につながっており、今後の研究計画として、動詞に後置される動作量や時間量としての数量句と、形容詞に後置されて二者間の差を示す数量句とを関連付け、体系的に論じることを目指す。
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