本研究は最終年度において、既に実施した自由回答法のアンケート調査I(動詞のタイプごとにどのような関連情報が含まれているのかについての調査)に対し、アンケートの追加項目を増やし、再度調査を実施した。その結果、アンケート調査では話者が持つ関連事象をうまく引き出すことができないことがわかった。なぜなら、自由回答式のアンケート調査では、回答してくれる関連事象の量に限りがあり、また、話者自身も意識的に引き出すことのできない関連事象が多いからである。 そのため、本研究は新たに国立国語研究所が開発した超大規模Webコーパスを利用することで、関連事象を調査する手法を確立した。それによって、効率的に、大量に、そして正確に関連事象を収集することに成功した。 このコーパスに基づく調査は2つの帰結をもたらした。まず、実施予定だったアンケート調査II(アンケート調査Iに基づく話者の容認度判断)が不要になった。次に、同じく実施予定だった計量的調査Iをこのコーパス調査の結果に基づいて、実施することができた。 これらの研究成果を踏まえて、日本語の複合動詞と中国語や韓国語などの諸言語と比較し、その異同点、及びそれをもたらす要因を明らかにしたものを、Cognitive Semantics (Chen 2020) に発表した。 また、日本語には予見不可能な使役事象を複合動詞で表すことができない(例:「*洗い汚す」。cf. 「食い散らす」)、という制約があることを明らかにした。一方、英語とタイ語は予見可能な使役事象であっても結果構文で表すことができず、意図的な使役事象しか表すことができない。また、中国語は予見不可能な使役事象でも、起こりうる使役事象であれば複合動詞で表すことができる。このことは使役事象の表現が、それを表す鋳型の違い及び類型論的な動機づけの影響を受けることを示しており、現在国際誌に投稿する準備を進めている。
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