研究課題/領域番号 |
17K13460
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
平井 吾門 立教大学, 文学部, 准教授 (80722214)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国語辞書 / 源氏物語 / 枕草子 / 用例 / 古語辞書 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、前年度作成したテキストデータをもとに、校合を行いつつ『雅言集覧』各項目の所引資料や所在といった基礎情報をタグ付けし、総合的なデータベースの整備を進めた。そしてそれを適宜利用し、前年度に引き続いて『雅言集覧』を中心とした辞書記述の分析を行った。その中で、前年度の調査からその重要度が確認された『源氏物語』の扱いについて、引用される用例の分量という観点が有効であることが分かった。そこで、『倭名類聚抄』などを除く和文資料の中で『源氏物語』についで用例数の多い『枕草子』を対立軸に据え、抽出の際に編纂者の意図が明確に表れると考えられる散文用例を対象とすることで、『雅言集覧』における意味記述と用例との関わりについて考察することができた。具体的には、『源氏物語』研究者としても知られる編者石川雅望は、『雅言集覧』では『源氏物語』用例を中心に据えつつも、『枕草子』を効果的に引用することで語釈を補強することに成功している蓋然性が高い。元来、用例は充実しているが語釈は少ないと評されてきた『雅言集覧』において、用例が意味記述の役割を果たすものであるということが明確になったと言える。『雅言集覧』の用例は近代以降の古語辞書にも大きな影響を与えていることが知られるため、用例の取捨選択の基準を今後の分析の一視点とすべきことも見えてきた。また、先行辞書『倭訓栞』においても、和歌用例が意味記述を補強する大きな役割を果たしたことが分かっており、両者の共有する知見を総合することが次年度の課題である。 これらの成果は、学術論文1本の執筆および2本の研究発表に繋がった。また、重要資料の可能性が高い写本『韻学私言』を徳島県立文書館にて調査し、九州大学本の写真版であることを確認した。直接の成果とは結び付いていないが、九州大学本の希少性も明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究機関を移ったことにより、設備や研究環境を構築するのにやや時間がかかった。その一方で、計画当初の想定を超えて『枕草子』の重要性を明らかにすることができ、今後の研究の大きな核を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果をふまえて、『雅言集覧』に結実した近世の知見について、意味記述を担う用例の整備という核を定めつつ、内部徴証及び先行書物との比較分析を進める。そして、最終年度であるため成果を適宜論文にまとめつつ、近世国語辞書の真価を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究機関を移ったことで、資料調査の計画を練り直す必要が生じた。研究に関わる大型の辞書や研究書の刊行が続いているため、次年度分と合わせて資料収集を続けるとともに、資料調査を進めていく。
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