研究課題/領域番号 |
17K13479
|
研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
本田 隆裕 神戸女子大学, 文学部, 助教 (20756457)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 格助詞 / 関係詞 / 前置詞 / 素性共有 / ラベル付け / 抽象格 / 形態格 / ゼロ代名詞 |
研究実績の概要 |
29年度は日本語の格助詞脱落現象と英語前置詞の格付与を研究した。 Saito (2016)の分析に基づき、DP及びPPは一致により値付与される抽象格素性を持ち、日本語の格助詞はこれらを補部に取る機能範疇であるが、格助詞そのものも抽象格素性を持ち、さらに併合により値付与される形態格素性も持つと提案した。これにより、主格・対格の格助詞脱落は随意的であるのに対し、属格の格助詞脱落は不可能である理由を説明した。また、日本語では可能な項省略や多重主語が英語では不可能である理由も明らかにし、日本語の音形ゼロ代名詞proが格助詞と共起できない理由も説明した。 英語前置詞の研究では、the man [Op I spoke to]のように、音形を持たない空演算子Opが関係代名詞として出現可能である一方、*the man [to Op I spoke]のように、前置詞の直後ではOpが出現不可能であるといった事実や、動詞insistはthat節を補部に取る際、能動文では前置詞onを要求しないが、受動文ではonを要求する事実について分析した。Chomsky (2015)のラベル付けに基づき、音形を持たない関係代名詞Opとthat節の主要部はどちらも音形ゼロ決定詞Dとなっており、このゼロDは格素性を欠き、英語のTのようにラベル決定に素性共有が必要な弱い主要部であり、さらに、前置詞は格素性のみを持つと仮定した。これにより、格素性のみを持つ前置詞とは素性共有が不可能なため、ゼロDは前置詞と共起できないと説明した。一方、Cとはwh素性の共有が、Tとはφ素性の共有が可能であるため、前置詞と連続しない場合は空関係代名詞Opの出現が可能であり、また前置詞の補部として基底生成されたthat節は能動文では出現不可能であるが、受動化などにより主語位置に移動した場合はTとφ素性共有が起こるため、出現可能となると説明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の研究計画では、英語の前置詞と共起できない空範疇として、不定詞主語のPROと空演算子である関係詞Opの両方について先行研究調査を行い、論文を執筆する予定であったが、PROに関する適切な先行研究を見つけることができず、文献調査が不十分であったため、Opに関する研究のみ論文にまとめた。この点では、研究に遅れが出ている。 一方、29年度に予定していなかった日本語格助詞の研究については、先行研究調査を進める中で、Saito (2016)の分析が本研究に応用できる可能性があることが分かったため、次年度の研究計画をある程度前倒しする形で進めることができた。 このため、全体的に見ると順調に研究が進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度のうちに研究を進められなかったPROと前置詞との関係について研究を行う予定である。ただし、PROが前置詞と共起できない理由について、Opが前置詞と共起できない理由と平行的に扱うべきかどうかは今後の先行研究によって再検討しなければならない可能性もあり、場合によってはPROの研究を本研究の対象外とする可能性もある。また、関係節については、これまで定形節のみを分析の対象としてきたが、不定形節についても分析の対象とするか検討する。 日本語の格助詞についての研究は、29年度にある程度進めることができたが、本研究で提案する理論のさらなる精緻化を行う予定である。 これらの研究内容について成果をまとめ、学会発表・論文投稿を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画段階では、学会での口頭発表を予定していたが、論文として発表することに変更したため旅費が発生しなかった。次年度は、文献調査に必要な図書購入、学会発表等の旅費、英文校正に予算を使用する計画であるが、次年度に繰り越すことになった予算については、図書購入にあてたい。
|