研究実績の概要 |
令和元年度は、本研究課題の中心テーマである、proや空演算子などの空要素に対する日本語格助詞と英語前置詞に見られる平行性について研究した。 本研究では、Saito (2016)が主張する反ラベリングが、Chomsky (2013)では言及されていない、{<素性, 素性>, XP}という集合のラベリングに起因する可能性があることを示した。XPのラベルは潜在的にラベルになり得る要素であることから、{<素性, 素性>, XP}という集合のラベルはXPのラベルとなると仮定することで、この<素性, 素性>のラベルを持つ集合に含まれる要素はラベリングから不可視となると主張した。また、格素性が音形の有無に左右されると仮定することで、日本語格助詞も英語前置詞も空要素と共起できないのは、どちらも併合の結果生じた集合のラベル付けが不可能であるためであると主張した。 また、that節が主語となる擬似受動文の派生について、前年度までの擬似受動文についての分析を修正し、Tanigawa (2018)が主張する文主語構文のthat節に値未付与の演算子素性を仮定する分析を取り入れることで、新たな説明が可能になることを示した。that節が主語となる擬似受動文については対応する能動文が非文法的になるが、これは能動文ではthat節が前置詞の補部や動詞の補部の位置を占めているが、この位置ではthat節の演算子素性に値が与えられず、一方、受動文ではthat節が時制辞と併合されることで演算子素性に値が与えられると主張した。 さらに、本研究で当初、that節が主語となる擬似受動文の派生を説明するために仮定していた、決定詞に値未付与のφ素性を仮定する分析を、過去の研究課題で取り上げたthere構文の分析に応用することで、新たな論文を執筆することができ、日本英語学会のEnglish Linguisticsに論文が採択された。
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