2019年度は以下の2点を明らかにすることができた。 1)ベトナムで行ったインタビュー調査の分析を進めた。2019年度は、教育産業以外の企業が設置した日本語教室で働いたことのある日本語教師へのインタビューの分析を進めた。調査協力者達は、利益のみが優先され、学習者数を増やすことばかりに目が向けられている職場で、葛藤を抱いていることが明らかになった。 2)香港とベトナム間の教師・学習者の意識の比較を行った。香港の学習者は、日本に対する漠然とした興味から日本語を学び始めており、日本語を学ぶ明確な目的を持ってはいなかった。そのため、教室には様々な興味・関心を持った学習者がおり、「楽しい」授業を提供するということは教師の間で共通の認識として共有されてはいたものの、その具体的な方法やそれを実現するための方向性は明確にはなっていなかった。そのため、教師自身の考えや経験に委ねられることが多く、他地域での日本語教師としての経験がうまく生かせなかったり、指針となる方向性が教育機関にはなかったため、どのような実践を行えばいいのかわからず、葛藤を抱く教師もいた。 一方、ベトナムの学習者は、就職や留学のためなど具体的な目的を持って日本語を学んでいた。学習目的がはっきりとしているため、プログラムの方向性も打ち出しやすく、学習者の目標のために必要なことを教育機関や教師が考え、提供することができていた。そして、それらは学習者に迎合するものではなかったが、学習者の目標を達成するために必要なものであったため、学習者からも受け入れられていた。 両地域を比較した結果、学習者の学習目的や興味関心の明確さが言語教育サービスの商品化の方向性の定めやすさを左右していることが明らかになった。また、教育機関が方向性をはっきりと打ち出すことは、教師の働きやすさにも直結しており、結果プログラム全体の質が高まっていくことにつながっていた。
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