本研究は、芸術系大学で学び、日本で就職した元留学生のライフストーリー調査である。近年、急増の傾向にあった芸術系大学で学ぶ留学生のキャリアを考えるための基礎研究となることを目的とした研究である。ここ2年は、コロナ禍にあり、思うように調査が行えなかったことは残念であった。最終年度も予定していた調査を十分に行うことはできなかった。 一方で、5年間調査を継続してきたことで、芸術系大学出身の元留学生のキャリアについて、ある程度把握することもできた。芸術系大学出身の元留学生は、デザイン関係の仕事についているケースが多いが、そこでも、やはりプロジェクトを遂行する上で求められる日本語能力が採用においても、採用後の業務においても非常に重要であることがわかった。また、業界自体が転職の多い業界であるため、留学生の転職も比較的容易であり、実際に仕事をする上で、自分がデザイナーとしてどうありたいかということが明確になり、そのビジョンに従って、次のキャリアを決めていくという傾向が見られた。このように、仕事を通して、デザイナーとしてアイデンティティを交渉しながらキャリアパスをつくっていく元留学生たちにとっては、就職に向けて、自身のキャリアを見つめるような従来の就職支援に加えて、より長期的な視野でキャリアを作っていくために必要な広い視野をもたせるような支援も重要であることがわかった。これらの調査結果は今後、論文等にまとめていくとともに、芸術系大学の就職支援の再構築にいかしていきたい。 調査の過程で、ライフストーリーをはじめとしたナラティブを取り入れてた研究のあり方への考察も深まった。その成果は、『ナラティブでひらく言語教育-理論と実践』(新曜社、北出慶子、嶋津百代との共編)にまとめることができた。
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