研究実績の概要 |
平成29年度は、第二言語(L2)習得に関わるモチベーションの変化の理解に向けて、複素力学系理論(complex dynamic systems theory:CDST)の考えを用いたL2モチベーション研究のレビューを行った。そのレビューから、CDSTやL2自己システム(L2 self-system)、そしてパーソナルビジョン(vision)をもとに考案された「directed motivational currents(DMC)」(Dornyei, Henry, & Muir, 2016)の理論枠組みを用いた研究が、本研究の進展に必要であることが理解できた。DMCとは、自ら高い価値を感じる目標の達成に向けて必要な活動に没頭できる現象であり、L2学習においても欠かせない要素である。DMCの理解を深めるためにも、研究代表者は、DMCを用いた研究と、自身が行ったCDSTとBronfenbrenner(1979)の生態学的発達論を用いたL2モチベーション研究(Sugawara, 2017)の接点を探った。その結果、生態学的発達論を用いることで、DMCが起こる環境条件に着目でき、特定の文化圏に根付く社会力学的な影響も含めたDMCの理解が可能となり、日本人青年期層の英語学習における長期的なモチベーションの育成に必要な知見が得られるとの結論に至った(菅原, 2018)。この見解を踏まえ、対象者層のDMC(あるいは、長期的なモチベーション)の理解に向けた実証的研究のために、先行研究(Muir, 2016, Sugawara, 2017, 他)をもとに質問紙を考案し、日本人学生から収集した量的・質的データの分析をした。この研究過程について国際会議(American Association for Applied Linguistics)で口頭発表し、今後の研究の進展に向けた振り返りを行った。
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