研究実績の概要 |
2018年度は、Bronfenbrenner (1979) の生態学的発達論の視点から、動機づけの潮流(directed motivational currents:DMC)の枠組み(Dornyei et al., 2016)を用いて、日本人青年期層の第二言語(L2)学習を強力に動機づける仕組みの理解を目指した。先行研究のレビューから、本研究の目的が、対象者層の将来こうありたいL2自己(ビジョン)と現在の英語学習における努力の維持を促す没頭体験の理解にあると明確になった。 上記に応じて、本研究では、143名の日本人学生からL2学習経験に関する自由記述項目と、DMC傾向、ビジョンの発生・維持を促す動機づけ条件、及び英語学習努力度を測る6段階リッカート尺度による複合質問紙を開発してデータを収集した。収集した記述データはグラウンデッドセオリー法で分析した。数値データは、SPSS 25.0を用いてCronbach's alphaによる信頼性検証後、SPSS Amos 25.0を用いた確認的因子分析・構造方程式モデリング、及びステップワイズ法による重回帰分析を行った。 その結果、DMCに類似する体験を含む8種類のL2学習経験が抽出でき、中でも、海外留学経験、英語コンテストやプロジェクト型学習など教室内外で英語を使用する活動を含む体験が数多く存在した。続いて、構造方程式モデリングから、DMC傾向から英語学習努力への影響は、ビジョンの発生・維持を促す動機づけ条件を介して起こることが示された。さらに、重回帰分析から、その動機づけ条件のうち、目標達成への手続き的ストラテジーの存在やビジョンの活性化が、英語学習努力に直接の影響をもたらすことが示された。 以上の結果から、対象者層のDMCとビジョンの発生・維持を促すメカニズムを生態学的発達論の視点から詳細に説明できる可能性を指摘し、今後の研究計画が浮上した。また、L2学習環境の視点から、日本人中学生にビジョンを活性化するタスクを導入し、状況的動機の変化に着目した研究の実施へと至った。
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