2019年度は、これまでに収集した各データの分析を実施し、スピーキング能力を評価する際に発話の複雑さ・正確さ・流暢さ(CAF)の値を直接フィードバックとして与えることによって、学習に良い波及効果がもたらされるかどうかを検証した。その結果、上記の方法でフィードバックを与えた場合と、評価基準に基づいて採点を行い、その得点を提示した場合で、スピーキング能力に統計的な差は見られず、発話のCAFを直接フィードバックとして与えた場合の学習効果は見られないという結果に終わった。3度のデータ収集を通じ、流暢さは1回目<2回目<3回目と徐々に数値が向上したのに対し、文法的複雑さは2回目<1回目=3回目、語彙的多様性は2回目=3回目<1回目となり、本研究のデータ収集期間を通じて学習者のスピーキング能力は大きく変動せず、語彙的多様性に至っては初回のデータが最も多様性がある結果となった。 インタビュー調査からわかったこととして、学習者は流暢さに関してはCAFの指標を見て自身の能力が向上しているかを判別しやすかった一方、言語的複雑さや正確さに関しては理解がしづらかったこと、表現の正確さを重視した結果、複雑さを重視しなかったなど、今後のスピーキング研究にとって有用なコメントが多数得られた。 この結果は、当初計画・予想していたものとは異なり、CAFを使ったフィードバックは教員(評価者)への負担が大きい一方で学習効果が乏しいという残念なものではあるが、スピーキング学習に対する学習方略を考慮に入れることでより深い考察ができることが示唆された。今後、同様の研究を大規模に展開することで、効果的なスピーキング指導法を探索できる可能性は十分にある。
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